2. 記憶を司るメモリ市場と日本の現在地
データセンターやAIサーバーが膨大なデータを処理するためには、計算を担うロジック半導体(GPUやCPU)だけでなく、データを記憶する「メモリ」が不可欠です。
2.1 DRAMとNAND、そしてエルピーダの教訓
メモリには大きく分けて、作業用の机に例えられる「DRAM」と、データを長期保存する本棚に例えられる「NANDフラッシュメモリ」があります。
現在、AI向けに需要が爆発しているのが、DRAMを積層してデータ転送速度を飛躍的に高めた「HBM(広帯域メモリ)」です。このDRAMおよびHBMの市場は、韓国のSKハイニックスとサムスン、そして米国のマイクロンの3社による寡占状態にあります。
かつて日本には「エルピーダメモリ」というDRAMメーカーがありましたが、価格競争の波に飲まれて倒産し、マイクロンに買収されました。もしエルピーダが存続していれば、現在のAIブームの中で日本勢がDRAM市場で大きな存在感を示していたかもしれません。
一方、NANDフラッシュメモリの分野では、旧東芝から独立した「キオクシア」が日本代表として奮闘しています。また、旧東芝との合弁の歴史を持つサンディスクもこの市場の重要なプレイヤーです。
泉田氏は、韓国の株式市場がAIブームで盛り上がっている背景について、時価総額の大きいサムスンとSKハイニックスがDRAMとNANDの両方の市場を取れる立場にあるからだと分析しています。
3. 後工程・電子部品で圧倒的シェアを誇る日本企業
前工程で作られたウェハーからチップを切り出し、基板に実装して最終的な製品に仕上げる「後工程」や、その周辺を固める「電子部品」の領域でも、日本企業は驚異的な競争力を持っています。
3.1 ICパッケージと驚異の絶縁フィルム「ABF」
高性能なAIチップは、複数のチップを一つのパッケージにまとめる高度な技術が求められます。AIチップ用のパッケージ基板(FC-BGA)ではイビデンが世界トップクラスの技術を持っています。
そして、このパッケージ基板に欠かせないのが「絶縁フィルム」です。ここで圧倒的な強さを見せるのが、食品メーカーとして知られる味の素です。
同社が開発した「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」は、なんと世界シェアの約95%を握っています。食品のアミノ酸研究から生まれたこの電子材料事業は、今や全社事業利益の約3割を稼ぎ出す屋台骨となっています。
また、基板の配線に使われる「銅箔」では、JX金属、三井金属鉱業(極薄銅箔で世界9割超)、古河電工などが高いシェアを持っています。基板に微細な穴を開けるレーザードリル装置では、三菱電機やビアメカニクス(アマダ子会社)が活躍しています。
3.2 基板からコンデンサまで、粉から始まるバリューチェーン
電子回路の土台となるPCB(プリント基板)の材料では、パナソニックや三菱ガス化学が重要です。特に三菱ガス化学は、基板の土台となる「BT材」で世界シェアの約8割を握っています。
さらに、電気を蓄えたり放出したりして電圧を安定させる「MLCC(積層セラミックコンデンサ)」は、AIサーバーに大量に搭載されます。この分野では、村田製作所が世界首位(AIサーバー向けでは約7割)を走り、太陽誘電やTDKといった日本企業が圧倒的な強さを誇ります。
興味深いのは、これらの電子部品のさらに「川上」にある材料メーカーの存在です。MLCCの原料となる「チタン酸バリウム粉」は堺化学工業や日本化学工業が、内部の電極に使われる「ニッケル粉」は住友金属鉱山が供給しています。
泉田氏は「粉の話して村田行くと焼き物の話して、村田行くと配合の話なんだよ」と語り、単に粉を作るだけでなく、それをどう配合し、どう均一に焼くかという「すり合わせの技術」が日本の競争力の源泉であることを指摘しています。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日