3. 代表例としての「フィジカルAI」
これら17分野の中でも、筆頭に挙げられ、特に注目を集めているのが「フィジカルAI」です。
政府の計画では、この分野に対して2040年度までに官民投資で10.5兆円が投じられ、AIロボット分野で2040年に20兆円の市場獲得を目指すという野心的な目標が掲げられています。
フィジカルAIとは、簡単に言えば「物理的なロボットの体に、AIの頭脳が組み込まれたもの」です。これまでも産業用ロボットは存在しましたが、それらは決められた動作を正確に繰り返すものでした。
そこにAIが搭載されることで、自律的に判断し、複雑な環境でも動作できるようになることが期待されています。
日本企業はこの分野でどのような動きを見せているのでしょうか。代表的な例として川崎重工の取り組みが挙げられます。
同社は10年以上にわたって国産人型ロボットの開発を続けており、2026年5月には米国のシリコンバレー・サンノゼに「Kawasaki Physical AI Center San Jose」という新たな拠点を開設しました。
さらに、NVIDIA、Analog Devices、Microsoft、富士通の4社と協業することを発表しており、世界的なIT企業とタッグを組んでフィジカルAIの開発を加速させています。
また、ロボットを構成する「部品」の領域でも日本企業は圧倒的な強みを持っています。
例えば、ロボットの関節を動かすために必要な「減速機」(モーターの回転速度を落として力を強くする部品)や、精密な動きを制御する「サーボモーター」、電子回路を安定させる極小の部品である「MLCC(積層セラミックコンデンサー)」など、完成品のロボットがどの国のメーカーのものであっても、その中身には日本製の部品が多数使われているという構造があります。
4. 「国策に売りなし」の正体とテーマ投資
こうした政府の巨大な投資計画を、投資家はどのように捉えるべきでしょうか。株式市場には古くから「国策に売りなし」という格言があります。国が推進する政策に関連する企業の株は買われやすく、株価が上昇しやすいという経験則です。
泉田氏はこの格言の正体について、次のように解説します。
「よく国策に売りなしとかって言うけど、あれって基本的には財政政策だと思ってもらえばいいのよ」
財政政策とは、政府が税金や国債を財源として公共事業などに資金を投じ、経済を刺激する政策のことです。
つまり、国が特定の分野に巨額の資金を投じるということは、その分野の企業に対して直接的・間接的に国のお金が流れ込むことを意味します。需要が創出され、企業の業績向上が見込まれるため、株式市場でもテーマとして盛り上がりやすいのです。
これを聞いた聞き手も、国が戦略的に伸ばすための投資を明言してくれているのだから乗らない手はない、という投資家としての期待と実感を漏らしていました。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日