4. 定年後に見直したい支出——「続けること・やめること」の線引き

4.1 60歳代に多いお悩みは「収入が減っても今の保険料を払い続けていいのか」「退職金をどう使えばいいのか」

60歳代のお客様
定年退職を控え、来年から世帯収入が半減する見込みです。何十年も同じように保険に加入し続けてきましたが、収入が減った後もこの支払いを続けてよいのか、判断がつきません。

住宅ローンもまだ残っており、退職金をローンの返済に充てるべきか、老後資金として温存すべきかも迷っています。

定年退職を控えた60歳代の方に多いのが、収入が減る見込みのなかで、これまで通りの保険料を払い続けてよいのかという不安です。保険の内容そのものを詳しく把握できておらず、どの保障を続け、どれをやめてよいのか、判断する基準がないというケースも少なくありません。

また、住宅ローンが残っている場合、退職金をローン返済に充てるべきか、老後資金として温存すべきかで迷う方も多いようです。前のページで見たとおり、年金生活に入ると家計は毎月赤字になるのが平均的な姿であり、手元資金をどれだけ残せるかは重要な論点になります。

4.2 【元銀行員が回答】金額ではなく「役割」で仕分ける

中本 智恵

銀行の窓口でお客様と預金・資産運用・保険・住宅ローンのお話をしてきました。定年前後のご相談で感じていたのは、迷いの原因が金額の大小ではなく、「その支出が今の自分に何をしてくれているのか」が見えていない点にあることです。

保険であれば、加入した当時に守りたかったものと、これから守りたいものは違うはずです。子どもが独立していれば、大きな死亡保障の役割は小さくなります。反対に、医療や介護に備える部分の重みは増します。金額を削ることが目的ではなく、役割の変わった保障を整理する、という順番で考えると判断しやすくなります。

退職金についても同じです。まとまったお金が入ると「どこに置くか」から考えたくなりますが、先に決めるべきは「いつ、何に使うか」です。使う時期が決まって初めて、預金のままがよいのか、一部を運用に回すのかという判断ができます。

4.3 ポイント1:保険は「今も必要な保障か」で仕分ける

まず着手しやすいのが保険です。加入時と今とで、家族構成も収入も変わっているのが普通です。死亡保障・医療保障・貯蓄性のある部分をそれぞれ書き出し、役割が終わったものから見直していきます。保険証券が手元にない場合は、保険会社に問い合わせて内容を取り寄せるところから始めます。

4.4 ポイント2:退職金は「使い道」を決めてから置き場所を決める

退職金は、使う時期によって置き場所が変わります。数年内に使う予定があるお金は預金で確保し、当面動かさないお金だけを運用の対象に考えます。まとまった金額を一度に動かす判断は、時期を決めてからでも遅くありません。

4.5 ポイント3:住宅ローンの繰上返済は「手元資金を残せるか」で判断する

住宅ローンを退職金で完済すれば、毎月の支出は確実に減ります。ただし、手元資金が薄くなると、医療費や住宅の修繕といった突発的な支出に対応しづらくなります。完済によって減る支出額と、残る手元資金の両方を並べて比べることが大切です。金利や残期間によって答えは変わるため、金融機関の窓口で試算を依頼するのも一つの方法です。

4.6 【試算】固定費を月1万5000円見直せたら、20年間の赤字はどう変わる?

前のページで見た「毎月4万2434円の赤字」を出発点に、支出の見直しでどれだけ変わるかを計算してみます。前提は「保険や通信費などの固定費を月1万5000円圧縮できた場合」で、ほかの収支は変わらないものとしています。

  • 見直し前の赤字:月4万2434円 → 20年間で約1018万円
  • 見直し後の赤字:月2万7434円 → 20年間で約658万円
  • 差:約360万円(月1万5000円 × 240カ月)

毎月1万5000円という金額は、保険の見直しや使っていないサービスの解約で生み出せる場合もある水準です。それでも20年という時間をかけると、約360万円の差になります。収入を増やすことが難しい年代にとって、支出側の1万円は、収入側の1万円と同じ重みを持ちます。

5. まとめにかえて

今回は、公的年金の仕組みや平均受給額、そして高齢者世帯の家計収支について、さまざまなデータをもとにご紹介しました。厚生年金の平均月額は15万289円、国民年金は5万9310円。65歳以上・無職夫婦世帯の家計収支は、毎月4万2434円の赤字でした。

あわせて、この赤字が20年・30年で積み上がるといくらになるかの試算と、固定費を月1万5000円見直した場合の効果も紹介しています。

もちろん、年金の受給額は現役時代の働き方や加入期間によって一人ひとり異なります。大切なのは、平均と比較して一喜一憂するのではなく、ご自身の年金見込額を正確に把握し、将来のライフプランに合わせた資金計画を立てることです。

年に一度送られてくる「ねんきん定期便」を確認したり、お近くの年金事務所に相談したりするのも一つの方法です。

参考資料

中本 智恵