7月に入り、いよいよ夏本番を迎えました。連日の暑さで冷房などの光熱費が上がりやすいこの時期は、日々の家計のやりくりを改めて見直すタイミングでもあります。

特に、6月に改定された新しい年金を受け取り、これからのリアルな収支バランスや働き方を確認しているシニア世代の方も多いのではないでしょうか。

老後資金のベースとなる収入を考える際、多くの方が基本の年金と貯蓄にのみ注目しがちですが、国や雇用保険にはシニアの暮らしを金銭的にサポートする給付制度が数多く用意されています。

しかし、これらは受給要件を満たしていても「自ら申請しない限り1円も支給されない」という明確なルールがあります。

本記事では、60歳以上のシニアが見落としがちな5つの公的給付の仕組みを整理します。さらに、働き続けるシニアにとって大きな関心事である「在職老齢年金(一定の収入があると年金が減額される仕組み)」の基本と今後の見直し動向について、客観的な視点から解説します。

齊藤 慧
本記事は、編集部が厚生労働省や日本年金機構などが公表する公式資料を確認の上、執筆・検証しています。

1. 【公的年金】上乗せが期待できる「2つの給付制度」

主な公的制度のうち、まずは公的年金に関わるお金について見ていきましょう。

1.1 ①加給年金

加給年金は、一定の条件を満たす場合に支給される年金です。

支給要件

厚生年金保険の被保険者期間が20年(※)以上ある方が、65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、その方に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算されます。

65歳到達後(または定額部分支給開始年齢に到達した後)、被保険者期間が20年(※)以上となった場合は、在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算されます。

※または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

加給年金額

配偶者と1人目・2人目の子については各24万3800円、3人目以降の子は各8万1300円となっています。

また、配偶者の加給年金の額には、老齢厚生年金を受けている方の生年月日に応じて、3万6000円から17万9900円が特別加算されます。

加給年金額(令和8年4月から)1/5

加給年金額

出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

1.2 ②年金生活者支援給付金

年金生活者支援給付金制度は、公的年金等の収入や所得が一定基準以下の年金受給者に対し、生活の支援を目的として年金に上乗せして支給される制度です。

老齢年金生活者支援給付金の支給要件

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の年金収入金額とその他の所得の合計が以下のとおり
    <昭和31年4月2日以後生まれの方>
    老齢年金生活者支援給付金は80万9000円以下である方、補足的老齢年金生活者支援給付金は、80万9000円を超え90万9000円以下である方に支給されます。
    <昭和31年4月1日以前生まれの方>
    老齢年金生活者支援給付金は80万6700円以下である方、補足的老齢年金生活者支援給付金は、80万6700円を超え90万6700円以下である方に支給されます。

なお、障害年金および遺族年金の受給者については別途要件が定められています。

給付額

老齢年金生活者支援給付金: 月額5620円(2026年度基準)

※実際の支給額は、保険料納付済期間や所得状況により異なります。

「年金生活者支援給付金」の給付基準額2/5

「年金生活者支援給付金」の給付基準額と平均給付月額

出所:日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」 

申請手続き

日本年金機構から送付される「年金生活者支援給付金請求書」を提出 

※すでに年金生活者支援給付金を受給している方は、新たな手続きは原則不要です

2. 【雇用保険】働き続けるシニアと退職者を支える「3つの手当」

続いて、主な公的制度のうち、雇用に関わるお金について見ていきましょう。

2.1 ①高年齢求職者給付金

高年齢求職者給付金は、65歳以上の高年齢被保険者が離職し、再就職を希望する際に支給される一時金です。

支給要件

  • 離職日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6か月以上あること
  • 失業の状態にあること

 支給額

  • 被保険者期間が1年未満:基本手当日額の30日分
  • 被保険者期間が1年以上:基本手当日額の50日分 

申請手続き

離職票等を持参し、ハローワークで求職の申込み

2.2 ②高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の一般被保険者が、60歳到達時の賃金月額に比べて75%未満に低下した場合に支給される給付金です。

支給要件

  • 被保険者であった期間(※)が5年以上あること。
  • 支給対象月の初日から末日まで被保険者であること。
  • 支給対象月中に支払われた賃金が、60歳到達時等の賃金月額の75%未満に低下していること。
  • 支給対象月中に支払われた賃金額が、支給限度額未満であること。
  • 申請後、算出された基本給付金の額が、最低限度額を超えていること。
  • 支給対象月の全期間にわたって、育児休業給付または介護休業給付の支給対象となっていないこと。

※「被保険者であった期間」とは、雇用保険の被保険者として雇用されていた期間の全て。なお、離職等による被保険者資格の喪失から新たな被保険者資格の取得までの間が1年以内であること及びその間に求職者給付及び就業促進手当を受給していない場合、過去の「被保険者であった期間」として通算。

支給額

賃金の低下率に応じて、以下のように支給率が決定されます。

高年齢雇用継続給付の支給率(2025年4月1日以降)3/5

高年齢雇用継続給付の支給率(2025年4月1日以降)

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

<2025年4月1日以降に受給資格の要件を満たした方>

  • 低下率が64%以下:支給対象月の賃金に対して10%
  • 低下率が64%超~75%未満:同10%~0%の間で賃金の低下率に応じて設定
  • 低下率が75%以上:不支給

申請手続き

原則必要書類をハローワークに提出

2.3 ③再就職手当

再就職手当は、雇用保険の基本手当(失業給付)を受給中の方が、所定給付日数の3分の1以上を残して安定した職業に早期再就職した場合に支給される手当です。

なお、「高年齢再就職給付金」とは併給できません。
 

支給要件

  • 受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職、又は事業を開始したこと。
  • 就職日の前日までの失業の認定を受けた上で、基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上あること。
  • 離職した前の事業主に再び就職したものでないこと。また、離職した前の事業主と資本・資金・人事・取引面で密接な関わり合いがない事業主に就職したこと。
  • 受給資格に係る離職理由により給付制限(基本手当が支給されない期間)がある方は、求職申込みをしてから、待期期間満了後1か月の期間内は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職したものであること。
  • 1年を超えて勤務することが確実であること。(生命保険会社の外務員や損害保険会社の代理店研修生のように、1年以下の雇用期間を定め雇用契約の更新にあたって一定の目標達成が条件付けられている場合、又は派遣就業で雇用期間が定められ、雇用契約の更新が見込まれない場合にはこの要件に該当しません。)
  • 原則として、雇用保険の被保険者になっていること。
  • 過去3年以内の就職について、再就職手当又は常用就職支度手当の支給を受けたことがないこと。(事業開始にかかる再就職手当も含みます。)
  • 受給資格決定(求職申込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと。

支給額

  • 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の場合: 70%
  • 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上の場合: 60%

基本手当日額の上限 

  • 60歳未満: 6570円
  • 60歳以上65歳未満: 5310円

※離職時の年齢

申請手続き

再就職手当の支給申請書等を、再就職日の翌日から1か月以内にハローワークに提出

3. 働きながら受け取る人は要注意。《在職老齢年金制度》の仕組み

60歳以降も働く人が増えるなか、給与収入と年金をどう組み合わせるかは、老後の家計を考えるうえで重要なテーマです。

会社員などとして働きながら老齢厚生年金を受け取る場合、収入の水準によっては年金額が調整されることがあります。

これが「在職老齢年金制度」です。

在職老齢年金制度では、賃金と老齢厚生年金の合計額が一定の基準を超えた場合、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止の対象となります。

3.1 在職老齢年金制度の見直しについて

在職老齢年金制度の見直しについて5/5

在職老齢年金制度の見直しについて

出所:厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」

2025年度の支給停止調整額は月51万円でしたが、2026年度からこの基準額が月65万円へ引き上げられています。

この改正により、2026年4月以降は、賃金と老齢厚生年金の合計額が月65万円以下であれば、老齢厚生年金は支給停止されません。

なお、合計額が月65万円を超えた場合でも、超過分に応じて老齢厚生年金が調整される仕組みです。賃金が増えたからといって、年金と賃金を合わせた収入が急に減るわけではありません。

基準額の引き上げにより、60歳以降も働く人にとっては、年金の支給停止を意識せずに働ける範囲が広がりました。

ただし、実際の手取り収入は、年金と給与の額面だけでは判断できません。給与には所得税や住民税、社会保険料がかかるため、最終的に手元に残る金額は別途確認する必要があります。

働き方を考える際は、年金の支給停止の有無だけでなく、給与・年金・税金・社会保険料を含めた家計全体の収支で判断しておきましょう。

4. まとめ

シニア世代が利用できる公的制度には、加給年金や年金生活者支援給付金のほか、離職や再就職、賃金低下を支える雇用保険の給付があります。

いずれも要件や申請先が異なるため、自分が対象になる制度を確認しておくことが大切です。

また、2026年度からは在職老齢年金制度の支給停止調整額が月65万円に引き上げられ、働きながら年金を受け取る人の選択肢が広がりました。

老後の収入を考える際は、年金額だけでなく、公的給付や就労収入、税金・社会保険料も含めて家計全体で見ておきましょう。

気になる制度がある場合は、日本年金機構やハローワーク、勤務先などに早めに相談してみてください。

5. 【監修者のコメント】この記事の総括とこれからの実務上の注意点

齊藤 慧

本記事で紹介されている『シニア向けの公的給付』や『在職老齢年金制度』は、定年前後のキャッシュフローを左右する重要な実務ポイントです。

役所から届く案内をいつものお知らせと勘違いして破棄してしまったり、ハローワークでの手続きを知らずに退職時期を決めてしまったりするヒューマンエラーには注意が必要です。

日本の公的制度の多くは、ご自身でアクションを起こさない限り、自動的に振り込まれることはありません。まずはご自身の状況が対象になっていないか、一度立ち止まって確認する習慣をつけてください。

また、働きながら年金を受け取る場合の制度変更なども話題になりますが、過剰に不安を抱く必要はありません。もらえるお金の手続きは確実に行いつつ、日々の生活費は自身の手取り枠内に堅実に収めておくこと。この基本セオリーこそが、インフレ時代における確かな家計防衛策となります。

参考資料

加藤 聖人