令和8年度(2026年度)から、年金額が引き上げられました。国民年金(基礎年金)が前年度比+1.9%、厚生年金の報酬比例部分が+2.0%の改定で、令和8年4月分(同年6月15日支給分)から適用されています。

物価高の中、「少し増えてよかった」と思っている方もいるかもしれません。しかし、この増額によって、これまで住民税非課税世帯だったのに、課税世帯になってしまうケースが出てきます。

実は、介護保険料は「課税か非課税か」と「所得がいくらか」で負担額に大きな差が生まれる仕組みになっています。

年々、全体の基準額も上昇傾向にある介護保険料。年金が少し増えたことで、かえって手取りが減ってしまう…そんな「逆転現象」が起きることもあるのです。

今回は、収入が公的年金のみの65歳単身世帯を例に、非課税のままだった場合と課税になった場合で、介護保険料の負担がどれくらい変わるのかを見ていきます。

1. 介護保険の概要と保険料が決まる仕組み

介護保険の被保険者は、65歳以上の方が「第1号被保険者」、40歳から64歳で医療保険に加入している方が「第2号被保険者」となります。

第1号被保険者の保険料基準額は、各市区町村が必要とする介護保険サービスの総費用に、65歳以上の方の負担割合(23%)をかけた金額を、その市区町村に住む65歳以上の人数で割って算出します。この基準額は3年ごとに見直されます。

※負担割合は国の財政支援(調整交付金)の状況によって自治体ごとに異なる場合があり、23%とは違う数値になる地域もあります。

つまり、その地域の高齢化率や介護サービスの利用状況が、保険料の水準に直結します。一人暮らしの高齢者が多く、特別養護老人ホームやデイサービスの利用が活発な地域では、サービス費用が大きくなる分、保険料も高くなりやすい傾向があります。

また、現役世代(40〜64歳)の人口動態も影響します。介護保険の給付費は、第2号被保険者の保険料(負担分27%)や国・都道府県・市区町村の税金によっても支えられているため、地域の年齢構成が変われば、65歳以上が負担する総額にも影響が及ぶからです。

2. 介護保険料は都道府県・市町村によって異なる

実際の保険料はいくらくらいなのでしょうか。

第1号被保険者の第9期(令和6年度〜令和8年度)における保険料基準額(月額)の全国加重平均は6225円です。

前回の第8期(令和3年度〜令和5年度)の6014円から、全国平均で3.5%上昇しました。

都道府県別の平均月額保険料(第9期)は以下の通りです。あくまで都道府県ごとの「平均」であり、実際は市区町村ごとにさらに差があります。

都道府県別「介護保険料(第1号被保険者)平均保険料基準額(第9期)3/5

都道府県別「介護保険料(第1号被保険者)平均保険料基準額(第9期)

出所:厚生労働省「第9期計画期間における介護保険の第1号保険料について」

  • 北海道:月額5738円(+0.8%)
  • 青森県:月額6715円(+0.6%)
  • 岩手県:月額6093円(+1.0%)
  • 宮城県:月額6098円(+2.7%)
  • 秋田県:月額6565円(+1.2%)
  • 山形県:月額6058円(-0.9%)
  • 福島県:月額6340円(+3.8%)
  • 茨城県:月額5609円(+2.3%)
  • 栃木県:月額5773円(+2.1%)
  • 群馬県:月額6203円(+1.1%)
  • 埼玉県:月額5922円(+8.0%)
  • 千葉県:月額5885円(+9.3%)
  • 東京都:月額6320円(+3.9%)
  • 神奈川県:月額6340円(+5.2%)
  • 新潟県:月額6412円(+1.7%)
  • 富山県:月額6327円(+0.4%)
  • 石川県:月額6354円(+0.1%)
  • 福井県:月額6223円(-0.3%)
  • 山梨県:月額5744円(-0.7%)
  • 長野県:月額5647円(+0.4%)
  • 岐阜県:月額6094円(+2.8%)
  • 静岡県:月額5810円(+2.3%)
  • 愛知県:月額5957円(+3.9%)
  • 三重県:月額6295円(+2.0%)
  • 滋賀県:月額5979円(-2.4%)
  • 京都府:月額6608円(+4.4%)
  • 大阪府:月額7486円(+9.7%)
  • 兵庫県:月額6344円(+5.7%)
  • 奈良県:月額6034円(+3.1%)
  • 和歌山県:月額6539円(+0.0%)
  • 鳥取県:月額6219円(-2.1%)
  • 島根県:月額6432円(+0.8%)
  • 岡山県:月額6364円(+1.5%)
  • 広島県:月額6098円(+1.9%)
  • 山口県:月額5568円(+2.2%)
  • 徳島県:月額6515円(+0.6%)
  • 香川県:月額6219円(+0.2%)
  • 愛媛県:月額6438円(+0.5%)
  • 高知県:月額5809円(-0.1%)
  • 福岡県:月額6295円(+3.6%)
  • 佐賀県:月額5983円(+0.0%)
  • 長崎県:月額6222円(-0.5%)
  • 熊本県:月額6190円(-0.8%)
  • 大分県:月額6235円(+4.7%)
  • 宮崎県:月額6038円(+1.4%)
  • 鹿児島県:月額6210円(-1.2%)
  • 沖縄県:月額6955円(+1.9%)

上昇率が特に目立つのは千葉県(+9.3%)、大阪府(+9.7%)、埼玉県(+8.0%)といった都市部です。

同じ都道府県の中でも、市区町村ごとにさらに差があります。次のセクションでは、具体的な数字で確認していきましょう。

3. 年金増額で「非課税→課税」に。介護保険料はいくら増える?《東京都港区の例》

介護保険料は各自治体が定める基準額をもとに、住民税の課税状況と合計所得金額の組み合わせで段階的に決まります。まず重要なボーダーラインとなるのが「世帯全員が住民税非課税かどうか」です。

ここでいう「合計所得金額」とは、前年の収入から公的年金等控除などを差し引いた金額です。国税庁タックスアンサー(No.1600)によると、65歳以上で年金収入が330万円以下の場合、公的年金等控除額は一律110万円となります。

市区町村によって異なるため、ここでは東京都港区の数字を使って、非課税・課税それぞれの介護保険料を具体的に見ていきます。

港区では、収入が公的年金のみ(65歳以上)の単身世帯の場合、年金収入が155万円以下であれば住民税非課税となります(令和8年度基準)。

第1号被保険者 介護保険料4/5

第1号被保険者 介護保険料

出所:港区「介護保険の保険料」をもとにLIMO編集部作成

では、非課税のままだった場合と課税になった場合で、介護保険料の負担がどれくらい変わるのか。65歳以上単身世帯のケースで試算してみます。

※年金増額が税金や保険料に反映される時期にはタイムラグがあり、今後の制度改正でラインが変わる可能性もあります。ここでは、増額による影響を分かりやすく可視化するため、現行の「令和8年度(港区)」の算定基準に当てはめて試算します

3.1 ケース①:年金収入155万円以下のまま(非課税)の場合

令和8年度の年金収入が、前年度と変わらず月額12万9166円(年額154万9992円)だったとします。基礎年金6万9308円+報酬比例5万9858円という内訳です。

この場合、年金収入は非課税ライン以下のため、「住民税非課税」となります。

介護保険料の所得段階は、第1〜5段階の判定では「公的年金等に係る雑所得を除いた合計所得金額」と「公的年金等の収入金額」の合計で判断します。

年金のみの収入の場合、合計所得金額(年金雑所得控除後)は0円となるため、公的年金収入の154万9992円がそのまま判定に使われます。

154万9992円 > 120万円のため「第3段階」に該当し、介護保険料は以下の通りです。

  • 年額:4万6080円
  • 月額:3840円

3.2 ケース②:年金額がアップし、住民税「課税」となった場合

もし、この増額改定後の年金額(年額157万9956円)をもとに住民税が計算され、155万円の壁を越えて「課税世帯」になってしまった場合、介護保険料はどうなるでしょうか。

令和8年度の年金額改定により、年金額が増えた場合、基礎年金7万608円+報酬比例6万1055円=月額13万1663円(年額157万9956円)となります。

※ 令和8年度の昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額)は、月額7万408円です。

合計所得金額は、157万9956円から公的年金等控除110万円を差し引いた約47万9956円です。

現行の港区の介護保険料段階に当てはめると、住民税課税で合計所得金額が125万円未満(今回は約48万円)となるため、「第6段階」に該当し、介護保険料は以下の通りです。

  • 年額:8万640円
  • 月額:6720円

3.3 非課税と課税、介護保険料の差は?

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LIMO編集部作成

LIMO編集部作成

年金が2万9964円増えただけで、介護保険料の負担はこれだけ変わります。

  • 月額の差:2880円増
  • 年額の差:3万4560円増

年金の増加額(年額2万9964円)を、介護保険料の増加額(年額3万4560円)が上回るという逆転現象が起きてしまいます。「年金が増えたのに手取りが減った」という状況です。

4. 年金増額で負担が増えるのは介護保険料だけじゃない

実は、住民税が非課税から課税になることで影響を受けるのは介護保険料だけではありません。

4.1 住民税が新たに課税される

住民税非課税だった方が課税になると、所得割(課税所得の10%)と均等割(定額部分)が新たに発生します。

一定の所得控除を差し引いた課税所得に対して課税されるため、金額は個人の状況によって異なりますが、数千円〜数万円単位の負担が加わります。

4.2 国民健康保険料(後期高齢者医療保険料)も上がる可能性

国民健康保険料や後期高齢者医療保険料も、所得に応じた「所得割」の部分があります。

年金収入が増えることで、保険料が引き上がるケースがあります。

4.3 住民税非課税世帯向けの各種給付・減免の対象外に

住民税非課税世帯を対象とした給付金や各種減免措置の恩恵が受けられなくなる点も見落とせません。たとえば、医療費の自己負担上限(高額療養費の区分)、介護サービスの食費・居住費の軽減(補足給付)、自治体独自の支援給付などが対象から外れる可能性があります。

一つひとつの影響はさほど大きくなくても、合計すると年金の増加分を大きく超える負担増になることもあります。

5. 「年金が増えた=手取りが増える」とは限らない

令和8年度の年金増額改定は、長年の物価上昇を反映した改定ではあります。

しかし、非課税ラインをわずかに上回るだけで、介護保険料・住民税・医療保険料といった複数の負担が一気に増え、実質的な手取りが減ってしまうケースがあることは知っておきたいところです。

今回の例(東京都港区・公的年金のみの65歳単身世帯)では、年金増加額を介護保険料の増加分だけで上回るという結果になりました。これはあくまで一つの例であり、住んでいる市区町村や家族構成、その他の所得の有無によって結果は大きく変わります。

自分の年金収入が住民税の非課税ラインとどれくらい離れているかを確認し、今後の負担変化を把握しておくことが、シニア世代のマネープランを考えるうえで欠かせない視点といえるでしょう。

参考資料

和田 直子