4. 巨大IT企業が支える「利益の前借り」構造
では、イビデンはどうやって資金の壁を乗り越えるのでしょうか。その秘密は、同社が採用しているユニークな資金調達モデル、「前受金」にあります。
イビデンは決算説明会資料の中で、今回の成長投資は「前受金を含む営業キャッシュフロー以内を基本とする」と明記しています。インタビュワーから前受金の仕組みについて尋ねられると、泉田氏は次のように噛み砕いて説明します。
「前受金って、お客さんに製品を納めるんだけど、先にお金もらっちゃう。それをベースに設備投資に当てて、まず製品ができたらまたもらうっていう」
製品を作る前に、顧客から工場建設の資金を前払いしてもらうという仕組みです。しかし、数千億円規模の前受金をポンと支払える「お客さん」とは、一体どんな企業なのでしょうか。
有価証券報告書(2025年3月期)の主要顧客リストを見ると、その答えがわかります。そこには、Intel(767億円)、NVIDIA(751億円)、AMD(407億円)という、世界を代表する巨大AIチップメーカーの名前が並んでいます。
泉田氏は、この顧客リストと2つの新工場の用途を照らし合わせ、ある推察を導き出します。AI GPU向けの大野事業場(2,800億円)は、GPUの絶対王者であるNVIDIAからの前受金で建設されるのではないか。
一方、AI ASIC向けの河間事業場(2,200億円)は、CPUやASICに強みを持つIntelもしくはAMDからの前受金が原資になっているのではないか、という見立てです。
なぜ、これほどの巨大企業がイビデンに巨額の前受金を支払うのでしょうか。泉田氏によれば、それは半導体製造の構造的な問題に起因しています。
「バリューチェーンっていう考え方があって、原材料から最終製品まであるときに、このICパッケージのところがボトルネックになると思ったんだろうね。であればお金を一部前出しすることによって、うまく作ってくださいよっていう取り組みなんだと思う」
どんなに高性能なAIチップを設計できても、それを収めるICパッケージ基板が不足すれば、製品として完成しません。NVIDIAやIntelといった巨大IT企業は、自社のビジネスを止めないために、バリューチェーンの要(ボトルネック)であるイビデンの生産能力を「利益の前借り」のような形で確保しに来ているのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日