4. なぜ300兆円の価値がつくのか?壮大なTAMと宇宙DC構想
現状は巨額の赤字であり、AI事業にお金を注ぎ込んでいる状態のSpaceX。それにもかかわらず、なぜ上場時に約300兆円(日本のGDPの約半分)という破格の時価総額が想定されているのでしょうか。
そのヒントは、S-1に記載された「TAM(Total Addressable Market=獲得可能な最大市場規模)」にあります。
S-1によれば、SpaceXが想定する総TAMは28.5兆ドルにのぼります。中国とロシアを除くデジタル経済全体に近い広範な定義ですが、そのうち実に26.5兆ドルがAI関連市場です。
さらにその中でも「エンタープライズ・アプリケーション(企業向けシステム)」市場が22.7兆ドルを占めると記載されています。SpaceXは、ビジネスユースのAI市場を最大のターゲットと見定めているのです。
しかし、MicrosoftやGoogleといった強力なライバルがいる中で、なぜSpaceXにそれほどの期待が集まるのでしょうか。
泉田氏は、イーロン・マスク氏が得意とする「垂直統合モデル」と、SpaceXにしかできない「宇宙データセンター構想」にその理由があると分析します。
「SpaceXだけは違う選択肢を持っているんだよね。それ何かというと、データセンターを宇宙に作る。ロケットで主要な部品とか部材を運べるし、宇宙であればエネルギーどうするのかってなると太陽光発電できるし、なんなら宇宙空間でデータセンターは熱しやすいので冷ますということができるようになる」
現在、地上のAI開発ではデータセンターを稼働させるための莫大な電力と、サーバーを冷却するためのエネルギー確保が大きな課題となっています。
しかし、SpaceXは自前のロケットでサーバーを宇宙に運び、宇宙空間の太陽光で発電し、宇宙の低温環境で冷却し、Starlinkを通じて地上にサービスを提供するという、すべてを自社で完結させる「垂直統合」が可能です。
実際にS-1には、軌道AIコンピュート衛星を2028年から展開する予定であることや、米連邦通信委員会(FCC)に対して最大100万機の衛星システムを申請済みであることが記載されています。
「もう少しスケールを大きく捉えて、AIのデータセンターどこに置くのかみたいな位置から考えてくると、SpaceXにしかできないことあるんだよね。そういった期待をどんどんどんどん膨らましていくと、もしかして300兆っていう時価総額がありかなっていう感じではなってくる」
株価は常に「未来への期待」で動きます。この桁外れのスケール感と、他社には絶対に真似できないインフラ構築力への期待こそが、300兆円というバリュエーション(企業価値評価)の根拠となっているのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日