現在、米国の10年物国債の金利は4.5%前後という歴史的な高水準を維持しています。
その一方で、為替レートは1ドル=159円台と、記録的な円安水準にあります。
「これだけ金利が高いなら米国債を買ってみたいけれど、ここから円高が進んだら大損してしまうのでは?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では「今、この条件で購入した場合、10年後にいくらまでの円高ならトントン(損益分岐点)になるのか」をシミュレーションします。米国債を購入するメリット・デメリットも確認しておきましょう。
1. 米国債「利付債」と「ストリップス債」とは?
米国債を新しく購入しようとする際、大きく分けて2つの選択肢があります。
それが「利付(りつき)債」と「ストリップス債(割引債・ゼロクーポン債)」です。
一言で言えば、この2つは「利息の受け取り方」が異なります。
1.1 利付債(年に2回利息を受け取る)
利付債は、年2回、決められた利息(クーポン)が定期的に米ドルで支払われる標準的な国債です。
満期時には額面通りの元本が戻ってきます。
途中で受け取った利息を再投資しない場合、運用は「単利」の扱いになります。
1.2 ストリップス債(利息は再投資し満期時に一括受け取り)※割引債/ゼロクーポン債
ストリップス債は、保有期間中に利息を受け取れません。その代わりに、将来もらえる利息分があらかじめ差し引かれ、「最初から割引された安い価格」で購入できる国債です。
満期時には額面通りの金額が戻ってきます。
実質的に利息が自動で再投資される「半年複利」と同じ効果が得られます。
【どんな人に向いてる?】
- 利付債:定期的にドルのキャッシュフロー(お小遣い)を楽しみたい人向け
- ストリップス債:途中の利息は不要で、将来に向けて効率よく資産を最大化したい人向け
2. 米国債を購入するメリット・デメリット
米国債投資における基本的なメリットとデメリットを整理しておきましょう。
2.1 メリット
- 安全性:世界最大の経済大国である米国政府が元利金を保証しているため、債券としてのデフォルト(債務不履行)リスクは極めて低いとされています。
- 金利水準:日本の超低金利とは比較にならない、4.5%前後というインカムゲインが期待できます。
- 値上がりの可能性:もし将来、米国の金利が下落した場合、債券の市場価格が上昇するため、満期を待たずに途中で売却して利益(キャピタルゲイン)を得るチャンスもあります。
2.2 デメリット(リスク)
- 為替リスク:ドル建てでは元本が保証されていても、日本円に換算した際、購入時より円高が進んでいると円建てで損失が出る可能性があります。
- 金利変動リスク:満期前に途中で売却する場合、もし購入時よりも世の中の金利が上がっていると、債券価格が値下がりしているため売却損が出ることがあります。
3. 【シミュレーション】10年後の損益分岐点はいくら?
では、「1ドル=159円」「金利4.5%」「保有期間10年」という現在の条件で米国債を購入した場合、将来の為替レートによって円建ての資産がどう変化するのか、期待値を一覧表で確認してみましょう。
今回は、利付債(単利運用)とストリップス債(半年複利運用)の2パターンを比較します。
3.1 利付債(単利運用)の場合
10年間、半年ごとに受け取る利息の合計は、元本のプラス45%となります。
この場合の損益分岐点は、1ドル=109.66円です。
利付債(単利運用)シミュレーション
利付債(単利運用)シミュレーション2/3
LIMO編集部作成
将来の為替:円建て損益率
- 89.66円:-18.24%
- 91.66円:-16.42%
- 93.66円:-14.59%
- 95.66円:-12.77%
- 97.66円:-10.94%
- 99.66円:-9.12%
- 101.66円:-7.30%
- 103.66円:-5.47%
- 105.66円:-3.65%
- 107.66円:-1.82%
- 109.66円:0.00%←損益分岐点
- 111.66円:1.82%
- 113.66円:3.65%
- 115.66円:5.47%
- 117.66円:7.30%
- 119.66円:9.12%
- 121.66円:10.94%
- 123.66円:12.77%
- 125.66円:14.59%
- 127.66円:16.42%
- 129.66円:18.24%
3.2 ストリップス債(半年複利運用)の場合
利息が出ない代わりに、半年複利の効果で10年後の資産は元本の約1.56倍(プラス56%)に膨らみます。
資産がより多く増えるため、損益分岐点はさらに円高に耐えられる1ドル=101.89円まで下がります。
ストリップス債(半年複利)シミュレーション
ストリップス債(半年複利)シミュレーション3/3
LIMO編集部作成
将来の為替:円建て損益率
- 81.89円:-19.63%
- 83.89円:-17.67%
- 85.89円:-15.70%
- 87.89円:-13.74%
- 89.89円:-11.78%
- 91.89円:-9.81%
- 93.89円:-7.85%
- 95.89円:-5.89%
- 97.89円:-3.93%
- 99.89円:-1.96%
- 101.89円:0.00%←損益分岐点
- 103.89円:1.96%
- 105.89円:3.93%
- 107.89円:5.89%
- 109.89円:7.85%
- 111.89円:9.81%
- 113.89円:11.78%
- 115.89円:13.74%
- 117.89円:15.70%
- 119.89円:17.67%
- 121.89円:19.63%
※上記は税金や買付手数料、為替手数料等を考慮していない税引前のシンプルな理論値です。
4. 満期を待たない「途中売却」というアプローチも
米国債の運用ルートは「10年間じっと持ち続ける」だけではありません。
購入後にアメリカの金利が下がった場合、満期の前に途中で売却して利益を確定させるという選択肢もあります。
債券の世界には、「金利が下がると、債券の価格が上がる(金利が上がると、価格が下がる)」という絶対的なシーソー関係があります。
仮に購入後にアメリカが利下げに転じ、金利が下降した場合、保有中の「4.5%の債券」のドル建て価格は値上がりします。
このタイミングを狙って途中で売却すれば、「売却益(キャピタルゲイン)」を手にするチャンスが生まれます。
4.1 中途売却時は「その時の為替」に注意
ただし、途中で売却してすぐに日本円に交換する場合は、「その時点の為替レート」もセットで見て判断しなければいけません。
いくら金利低下によって「ドル建ての債券価格」が上昇していても、それ以上に急激な円高が進んでいれば、円に換えた段階で値上がり益が相殺されてしまう(あるいはマイナスになる)リスクがあるからです。
途中で抜ける場合は、「ドル建ての価格上昇」と「為替レート」の掛け算でトータルがプラスになっているかをシミュレーションし直す必要があります。
5. まとめ
1ドル159円のいま、仮に4.5%の米国債を購入した場合、満期償還時の為替レートの損益分岐点は以下の試算結果となりました。
- 利付債(単利)を選ぶ場合、10年後に約50円の円高(109円台)が進んでも、トータルの円建て収支はマイナスになりません。
- ストリップス債(半年複利)を選ぶ場合、複利効果のディフェンス力が加わるため、10年後に約57円の円高(101円台)、つまり「1ドル=100円の壁」の寸前まで円高が進んでも耐えられる計算になります。
現在の為替レート(159円)だけを見ると「円安で手を出しにくい」と感じるかもしれません。
しかし、4.5%という高い金利を10年間掛け合わせることで、「将来、かなりの円高が進んでもカバーできるだけの分厚いクッション」となります。
もちろん、10年後に1ドル=90円や80円といった、想定を超える超円高時代が到来する可能性もゼロではありません。
特定の投資を推奨するものではありませんが、この「金利」と「為替」の仕組みをご自身の許容できるリスクと照らし合わせ、冷静な投資判断の材料としてぜひご活用ください。
【免責事項】
- 投資にはリスクが伴います。
- 本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。
参考資料
和田 直子