4. 銅価格に依存する収益構造からの脱却
株価の動きや資本政策の裏で、JX金属の事業そのものはどのような状況にあるのでしょうか。
実は、来期の営業利益予想1,900億円のうち、過半数を占める1,240億円は「基礎材料」、つまり「銅」を販売する事業から生み出されています。
半導体や情報通信の先端素材メーカーというイメージが強い同社ですが、利益の構成から見ると、依然として「銅の価格」に業績が大きく左右される構造を持っています。
経営陣もこの構造を課題と認識しており、事業ポートフォリオの変革を急いでいます。その象徴的な動きが、海外の「カセロネス銅鉱山」の権益売却です。これまで100%保有していた権益を30%に減らし、今期はさらに25%へと段階的に引き下げています。
この権益譲渡で得られる約340億円の資金は、次なる成長事業へと振り向けられます。具体的には、約230億円を投じて「ひたちなか新工場」での半導体用ターゲット材の増産設備に投資する計画です。
半導体用ターゲット材とは、半導体の製造工程(電子回路の形成)に欠かせない高純度の金属材料であり、JX金属はここで世界シェア約65%(世界No.1)を握っています。
また、スマートフォンなどに使われる曲がる基板向けの「圧延銅箔」でも世界シェア約78%を誇るなど、圧倒的な技術力を持っています。
泉田氏は、この事業構造の転換を高く評価しています。
「単に銅の権益持って銅売りますよっていうビジネスから、付加価値をつけてそれをユーザーに提供しますよっていうビジネスに変えてるっていう、今そういう最中だね」
銅の価格という外部要因に振り回されるビジネスから、自社の技術力で価格決定権を持てる「付加価値の高いビジネス」へのシフト。
これが成功すれば、将来の収益が読みやすくなり、株式市場からもより高い評価(バリュエーション)を得られるようになると泉田氏は指摘します。
5. まとめ:成長株投資は「金利」から目を離さない
JX金属の株価急落は、決して企業の競争力が失われたからではありません。圧倒的な世界シェアを持つ製品群を有し、銅価格依存からの脱却という正しい戦略を描いています。
しかし、株式市場は「企業の業績」だけでなく「金利の動向」というマクロ環境に強く影響を受けます。特に将来の成長が期待される銘柄ほど、その波をまともに受けることになります。泉田氏は最後に、投資家に向けて重要なメッセージを送りました。
「半導体だから下がってるとかAIだから下がってるっていう風にがっかりしないで、しっかり金利の推移を見ていく方が投資家としては大事かなと思う」
個別企業の決算やニュースだけでなく、10年国債金利などのマクロ指標にも目を配ることが、株式投資においていかに重要か。JX金属の事例は、その教訓を私たちに教えてくれています。
参考資料
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年2月21日