3. 複雑な資本政策「TOB+CB」の真の狙いとは
決算発表と同時に、JX金属は大規模な資本政策を発表しました。それが「自己株式の公開買付(TOB)」と「転換社債(CB)の発行」です。
専門用語が並び、投資家の間でも「なぜこんな複雑なことをするのか?」と混乱の声が上がりました。
この施策の背景には、JX金属の親会社であるENEOSホールディングスが、同社の株式を40%以上保有しているという「いびつな資本構造」があります。特定の株主が大量に株を持っていると、市場に出回る株(浮動株)が少なくなり、流動性が低下してしまいます。
そこでJX金属は、ENEOSの持ち株比率を下げるために、自社株を買い取る(TOB)ことを決定しました。
しかし、自社株を買い取るには莫大なお金が必要です。その資金(2,500億円)を調達するために発行したのが、将来株式に転換できる権利がついた社債「CB(転換社債)」です。
「CBを発行したら将来株が増えてしまって、自社株買いの効果が薄れるのでは?」と鋭い疑問を投げかけられると、泉田氏は「資金調達コスト(WACC)」という企業の財務戦略の核心に触れました。
企業が資金を集める際、株式を発行するコスト(株主から求められるリターン)と、借金や社債を発行するコスト(支払う金利)では、一般的に株式の方が高くつきます。
「株式の資金調達コストって、大体8から10ぐらいあるんです。デット(負債)だと簡単に言うと金利分ぐらい。そうすると3、4%です。8と3、4%を比べた時に、当然ながら株式の方が大きくなる。この比率を下げる方が、会社全体の資金調達コスト下がるというわけです」
つまり、コストの高い「株式」を減らし、相対的にコストの低い「社債(負債)」を増やすことで、会社全体の資金調達コストを引き下げる(財務体質を最適化する)ことが、この複雑な資本政策の真の狙いなのです。
単なる目先の株価対策ではなく、長期的な企業価値向上のための布石であることが分かります。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日