5. 異業種競争の時代と「ロボット」に見出す活路
しかし、トヨタが「サービス会社」を目指す道のりには、かつてない強大なライバルが待ち受けています。それが、IT企業やアプリプレイヤーたちです。
泉田氏は今から12年前の2014年、著書の中で「自動車メーカー同士の競争じゃなくて、自動車メーカーと異業種の競争の時代に入りますよ」と予言していました。
現在、アメリカでは元Google系のWaymo(ウェイモ)が自動運転タクシーを展開し、Uber(ウーバー)などの配車アプリが世界中の移動インフラを握りつつあります。
「ハードウェア(車)を製造する企業」と「ソフトウェア(アプリ)を提供する企業」が戦った場合、どちらが強いのでしょうか。泉田氏は、勝負の鍵は「タッチポイント(顧客との接点)の数」にあると分析します。
トヨタの年間販売台数は約1,000万台弱ですが、生産キャパシティの限界もあり、これを一気に2,000万台に増やすことは困難です。
一方で、スマートフォンにインストールされる配車アプリは、世界中で何億人ものユーザーと毎日直接つながっています。消費者が「A地点からB地点に安く安全に移動したい」と考えたとき、最初に開くのは車のドアではなく、スマホのアプリです。
アプリ側が顧客を握ってしまえば、車は単なる「移動のための箱」として買い叩かれる下請けになってしまうリスク(バーゲニングパワーの低下)があるのです。
では、トヨタはGoogleなどのIT巨人に飲み込まれてしまうのでしょうか。泉田氏は、トヨタが勝機を見出せる意外な領域として「ロボット」を挙げます。
「一番安定して物を運べるのって、平坦な道っていう前提ではあるけど四輪なんだよね。ってなったら、車のカーメーカーが一番強くないって僕は思ってるんだよ」
自動車というと「人が運転して乗るもの」と考えがちですが、自動運転技術が進化した未来において、車は「人を乗せなくてもいい四輪のロボット」へと進化します。例えば、物流倉庫の中で荷物を運ぶ無人搬送ロボットや、深夜の高速道路を自動で走る無人トラックなどです。
企業が「A地点からB地点へ大量の荷物を安全に運びたい」と考えたとき、そこには強固なハードウェアの信頼性と、それを運用するインフラが求められます。
中国のBYDなどが3交代制で24時間体制の猛烈な研究開発(R&D)を行って追い上げてきていますが、トヨタには長年培ってきた「壊れない車」という絶対的なブランド力と安心感があります。
「ハードウェアからサービスを安心安全に提供しますよってなると、やっぱ地域差出てくると思うんだよね。(中略)トヨタがやってる自動運転車とか物流サービスとかってなったら使うよね、そっちの方が」
トヨタが建設を進めている実証都市「Woven City」も、まさにこのロボットや自動運転が安全に機能するための「管理されたインフラ空間」を作る壮大な実験と言えます。
一般消費者向けのアプリ競争ではIT企業に分があっても、B2Bの高度な無人輸送ロボットや、インフラと一体化したモビリティサービスの領域であれば、トヨタの「ものづくり」のDNAが最大の武器になるのです。
6. まとめ
トヨタ自動車の売上高50兆円という金字塔の裏には、米国関税や資材高騰といったマクロ環境の荒波に翻弄される巨大製造業の苦悩が隠されていました。どれほど現場が原価低減の努力を重ねても、外部環境の悪化で兆円単位の利益が吹き飛んでしまうのが現実です。
しかし、トヨタはただ現状に甘んじているわけではありません。従来の「車を作ってディーラーに卸す」というビジネスモデルから脱却し、移動サービスを提供する「モビリティカンパニー」への変革を宣言し、ROE20%という高い資本効率を目指しています。
次世代の競争相手は、もはやホンダや日産ではなく、GoogleやUberといった世界のIT巨人たちです。
その熾烈な異業種競争の中で、トヨタが長年磨き上げてきた「四輪のハードウェアを安全に動かす」という製造業の強みが、物流ロボットやインフラ型サービスという新たな領域でどのように花開くのか。
マクロ経済の動向だけでなく、この「事業構造改革」の進捗こそが、今後のトヨタの真の企業価値を決める試金石となるでしょう。
参考資料
- トヨタ自動車株式会社「2026年3月期 決算短信」(2026年5月8日)
- トヨタ自動車株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月8日)
- Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
