2. グローバル販売の強みと「北米赤字転落」のコントラスト
自動車メーカーの業績を左右する最もシンプルで重要な指標は「販売台数」です。泉田氏は「自動車メーカーの売り上げって、販売台数かける単価」であると述べ、まずは台数の動向を押さえることの重要性を強調します。
2026年3月期のトヨタの連結販売台数は9,595千台(前期比+2.5%)でした。グループ全体(ダイハツ・日野を含む)の総販売台数で見れば約1,128万台に達し、過去最高を記録しています。
地域別の内訳を見ると、トヨタのビジネスポートフォリオの強みと弱みが鮮明に浮かび上がります。
- 日本: 2,082千台(前期比+4.6%)
- 北米: 2,934千台(前期比+8.5%)
- 欧州: 1,183千台(前期比+1.0%)
- アジア: 1,759千台(前期比マイナス4.3%)
- その他: 1,637千台(前期比マイナス1.3%)
泉田氏はこの結果を見て、「トヨタは比較的販売台数の地域が分散されているカーメーカーです」と評価します。特定の地域に依存しすぎず、世界中でバランスよく販売網を構築している点は、投資信託の分散投資のようにリスクを和らげる効果があります。
しかし、販売台数と「利益」は必ずしも比例しません。ここが企業分析の面白いところであり、恐ろしいところでもあります。
所在地別の営業利益を見ると、衝撃的な事実が判明します。販売台数で約293万台と最大のボリュームを誇る北米セグメントが、前期の1,043億円の黒字から、今期は2,986億円の赤字へと転落してしまったのです。
営業利益率も前期の0.5%からマイナス1.4%へと悪化しました。
一方で、トヨタの屋台骨を支えているのは圧倒的に「日本」です。日本の営業利益は2兆3,307億円に上り、全地域の利益の大半を稼ぎ出しています。
ただし、その日本でさえも、営業利益率は前期の14.5%から10.6%へと低下しています。また、アジア地域は販売台数こそ減少したものの、営業利益率は9.4%と相対的に高い水準を維持しており、底堅さを見せています。
「売れば売るほど儲かる」という単純な構造が崩れ、関税や為替、現地での販売競争の激化により、巨大市場であるアメリカで利益を出せなくなっている。これが、現在のトヨタが抱える大きな事業構造上の課題なのです。
【動画で解説】なぜトヨタは売上50兆円でも大幅減益なのか?
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日