日本の半導体関連銘柄の代表格であり、日経平均株価への影響も大きい東京エレクトロンは、半導体製造に欠かせない「塗布・現像装置(コーターデベロッパー)」という特定の分野で、世界シェアの約9割を独占する圧倒的な強さを持っています。

一体なぜ、変化の激しいテクノロジー業界において、これほどまでに高いシェアを長期間維持し、安定して稼ぎ続けることができるのでしょうか。

この秘密について、元機関投資家の泉田良輔氏が東京エレクトロンの事業構造と競争環境を分析し、業績好調の本当の理由を解説します。

この記事のポイント

  • 東京エレクトロンの強みは、半導体製造の前工程に欠かせない「塗布・現像装置」の高い世界シェアにある
  • 既存顧客との強固な関係性が、最先端技術の開発において圧倒的な「先行者優位」を生み出している
  • 独占禁止法の制約で買収による拡大が難しい中、AI投資など市場全体の拡大が同社の成長を牽引する

1. 半導体製造の「コア中のコア」を担う事業とは

AIやスマートフォンの普及に伴い、「半導体関連銘柄」への注目が高まっています。

しかし、初心者にとって「半導体企業が具体的に何を作っているのか」はイメージしにくいものです。東京エレクトロンの事業内容について尋ねられると、泉田氏は同社が「半導体の製造装置」において極めて重要な役割を担っていると解説します。

「半導体って焼き物なんですよ。シリコンウェハの上に薬をつけて現像して、今度は薬をつけてエッチングという溝を作って、どんどん回路を作っていくんだけど、それの繰り返しが半導体の製造工程なので」

半導体は、シリコンウェハと呼ばれる円盤状の基板の上に、微細な電子回路を何層にも重ねて作られます。この回路を形成する一連の工程を「前工程」と呼びますが、東京エレクトロンはこの前工程で使われる装置に強みを持っています。

中でも同社の代名詞と言えるのが「コーターデベロッパー(塗布・現像装置)」です。

泉田氏はこれを、昔のフィルムカメラの写真現像に例えて説明します。暗室でフィルムを薬液に浸して写真を浮かび上がらせるように、半導体製造でもウェハに特殊な薬液を塗布(コーティング)し、光を当てて回路のパターンを焼き付けた後、不要な部分を溶かして現像(ディベロップ)します。

この「薬液を塗る機械(コータ)」と「現像する機械(デベロッパー)」を組み合わせた装置において、東京エレクトロンは世界中の半導体工場になくてはならない「コア中のコア」の存在となっているのです。

半導体製造プロセスにおける東京エレクトロンの位置づけ1/4

半導体製造プロセスにおける東京エレクトロンの位置づけ

出所:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性」(2025年12月23日)を基にイズミダイズム作成

【動画で解説】東京エレクトロンの強みは「シェア9割の半導体事業」なのか。元機関投資家が分析

2. 圧倒的な世界シェアと多角的な事業ポートフォリオ

東京エレクトロンのコーターデベロッパーがどれほど強力なのか、泉田氏は経済産業省が公表している資料を引き合いに出して説明します。

「コーターデベロッパー、塗布と現像装置のところを見てもらうと、この東京エレクトロンが世界のシェアの85%持ってますよっていうのが出てます」

この資料が作成された時点でも85%という驚異的な数字でしたが、泉田氏によれば、直近(CY2025)の決算説明会資料ではそのシェアはさらに拡大し、なんと91%に達しているといいます。

世界中で作られる最先端の半導体のほとんどが、東京エレクトロンの装置を通って生産されていると言っても過言ではありません。

東京エレクトロンの主要プロダクト世界シェア2/4

東京エレクトロンの主要プロダクト世界シェア

出所:東京エレクトロン「2026年3月期 決算説明会資料」(p.28)を基にイズミダイズム作成

しかし、同社の強みはコーターデベロッパーだけではありません。実は売上の構成を見ると、事業がしっかりと多角化されていることがわかります。

FY2026(2026年3月期)の製品別売上構成比を見ると、コーターデベロッパーが28%であるのに対し、「エッチング装置(ウェハの表面を削って溝や回路を作る装置)」が36%、「成膜装置(ウェハの表面に薄い膜を作る装置)」が20%を占めています。

世界シェアで見ると、ドライエッチング装置は23%、成膜装置は27%、洗浄装置は20%と、コーターデベロッパー以外の分野でも世界トップクラスの競争力を維持しているのです。

また、これらの装置が世界のどこで売れているかという「地域別売上」も重要なポイントです。

FY2026の第4四半期のデータを見ると、中国が26.8%、韓国が24.3%、台湾が22.0%と、アジアの3強が売上の大半を占めています。

通期で見ても中国向けの売上構成比は34.1%に達しており、スマートフォンやデータセンター向けなど、世界の半導体製造の最前線となる地域にしっかりと入り込んでいることがわかります。

【動画で解説】東京エレクトロンの強みは「シェア9割の半導体事業」なのか。元機関投資家が分析

東京エレクトロンの地域別売上構成比(FY2026 Q4)3/4

東京エレクトロンの地域別売上構成比(FY2026 Q4)

出所:東京エレクトロン「2026年3月期 決算説明会資料」(p.5)を基にイズミダイズム作成

3. なぜシェア9割を維持できるのか?参入障壁の正体

ここで一つの疑問が浮かびます。テクノロジーの進化が速い半導体業界において、なぜ東京エレクトロンはこれほど長期間にわたって圧倒的なシェアを維持し、他社にその座を奪われないのでしょうか。

泉田氏は、半導体メーカーが製造装置を選定する際の基準として「品質」「スループット(一定時間あたりの生産能力)」、そして「微細化への対応」を挙げます。

半導体は日進月歩で新しい技術が求められるため、装置メーカーは常に最先端の開発を続けなければなりません。

この「常に新しい技術が求められる」という環境こそが、実はトップシェア企業にとって最大の防御壁になっていると泉田氏は指摘します。

「半導体メーカーが次の新しい技術をやるときには、装置メーカーで今一番使っているところに最初に相談行くじゃない。ってなったら、その人が最初に一番技術の話を知って、そこから研究開発するじゃない。そうなるとその人がまた有利だよね」

例えば、スマートフォン向けの半導体をさらに小型化・高性能化したいと考えた半導体メーカーは、まず自社の工場で最も多く稼働し、信頼を置いている製造装置メーカーに「次はこういうものを作りたい」と相談を持ちかけます。

結果として、シェア9割を握る東京エレクトロンには、世界中の最先端の技術ニーズがいち早く集まります。その情報を基に他社に先駆けて研究開発を行い、次の世代の装置を完成させるため、後発の企業が追いつくことは極めて困難になるのです。

これが、同社が築き上げた強固な「先行者優位」のループです。

4. 高シェアゆえの「構造的制約」とM&Aの壁

圧倒的なシェアと強固な参入障壁を持つ東京エレクトロンですが、泉田氏はプロの投資家ならではの視点で、高シェア企業が抱える特有の「構造的制約」についても解説します。

一般的な企業であれば、さらなる成長を求めて競合他社を買収(M&A)し、シェアを拡大する戦略をとります。しかし、東京エレクトロンほどの規模になると、この王道のアプローチが難しくなります。

「他の会社を買ってシェアを上げるっていうのが、プレイヤーの数も限られているのでどんどん難しくなっているっていうのはあります」

半導体製造装置の市場は、求められる技術水準が極めて高いため、そもそも参入している企業の数が限られています。

その中で、すでに高いシェアを持つ東京エレクトロンが他社を買収しようとすると、各国の独占禁止法に抵触するリスクが高まり、当局からの承認を得ることが難しくなるのです。

【動画で解説】東京エレクトロンの強みは「シェア9割の半導体事業」なのか。元機関投資家が分析

自力で他社のシェアを奪うにしても、半導体工場は一度導入した装置を簡単には変更しません。急に別のメーカーの装置に変えて歩留まり(良品率)が落ちるリスクを恐れるためです。

この構造が意味することについて、泉田氏は次のように結論づけます。

「奪われにくいけど、自分たちの成長がマーケットの成長とイコールになっちゃうので、なかなか工夫してもマーケット以上には伸びないっていうことにはなっちゃうね」

つまり、東京エレクトロンの業績が伸びるかどうかは、同社の自助努力以上に、「世界中の半導体メーカーがどれだけ設備投資にお金をかけるか」という市場全体の波(マクロ環境)に大きく依存することになるのです。

5. 次期の強力な成長ドライバーとAI投資の恩恵

では、東京エレクトロンの成長を左右する「市場全体の設備投資の波」は、現在どのような状況にあるのでしょうか。

泉田氏は、半導体業界には需要の波(シリコンサイクル=数年単位で繰り返される好不況の波)が常にあるとしつつも、現在はAIの普及による巨大な投資ブームが起きており、単なるサイクルを超えた特別な成長局面(「ボーナスステージ」)に入っていると分析します。

その自信は、会社が発表した次期(FY2027)の成長ドライバーの数値にも明確に表れています。

決算説明会資料によると、同社は主力の「塗布・現像装置」で前年比(YoY)+50%以上、「エッチング装置」で同+25%以上という、非常に強気な売上成長を見込んでいます。

さらに注目すべきは「アドバンストパッケージング」と呼ばれる分野です。これは複数の半導体チップを高密度に組み合わせる最新技術ですが、FY2026に約2,000億円規模だった売上が、FY2027には前年比+60%以上で成長すると予測されています。

AIの進化により、データセンターの処理能力の増強はもちろん、今後は自動運転車やロボットなど、物理的な世界でAIが稼働する「フィジカルAI」の需要も拡大していくと予想されます。

膨大なデータを処理するための半導体需要が続く限り、構造的な制約を抱えながらも、市場全体の拡大という追い風を最も強く受けられるのが、シェアトップの東京エレクトロンなのです。

FY2027 主要製品群の売上成長見込み4/4

FY2027 主要製品群の売上成長見込み

出所:東京エレクトロン「2026年3月期 決算説明会資料」(p.16)を基にイズミダイズム作成

6. まとめ

東京エレクトロンは、半導体製造の前工程において不可欠な装置を提供し、特定の分野で世界シェア9割を握る稀有な企業です。

既存顧客との強固な関係性が最先端技術の開発において圧倒的な先行者優位を生み出し、他社の追随を許さないビジネスモデルを構築しています。

独占禁止法の壁などによりM&Aでの急激なシェア拡大は難しいものの、AI投資の過熱という巨大なトレンドの中で、市場全体のパイが拡大する恩恵を最大限に享受できるポジションにいます。

同社の業績や株価の動向を追う際は、個別の企業努力だけでなく、世界の半導体設備投資の波が現在どのフェーズにあるのかを俯瞰して見ることが重要です。

※本記事は東京エレクトロンの事業構造や決算情報を解説するものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

参考資料

  • 東京エレクトロン株式会社「2026年3月期 決算短信」
  • 東京エレクトロン株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」
  • 経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性」
  • Youtubeチャンネル「イズミダイズム」