5. 次期の強力な成長ドライバーとAI投資の恩恵

では、東京エレクトロンの成長を左右する「市場全体の設備投資の波」は、現在どのような状況にあるのでしょうか。

泉田氏は、半導体業界には需要の波(シリコンサイクル=数年単位で繰り返される好不況の波)が常にあるとしつつも、現在はAIの普及による巨大な投資ブームが起きており、単なるサイクルを超えた特別な成長局面(「ボーナスステージ」)に入っていると分析します。

その自信は、会社が発表した次期(FY2027)の成長ドライバーの数値にも明確に表れています。

決算説明会資料によると、同社は主力の「塗布・現像装置」で前年比(YoY)+50%以上、「エッチング装置」で同+25%以上という、非常に強気な売上成長を見込んでいます。

さらに注目すべきは「アドバンストパッケージング」と呼ばれる分野です。これは複数の半導体チップを高密度に組み合わせる最新技術ですが、FY2026に約2,000億円規模だった売上が、FY2027には前年比+60%以上で成長すると予測されています。

AIの進化により、データセンターの処理能力の増強はもちろん、今後は自動運転車やロボットなど、物理的な世界でAIが稼働する「フィジカルAI」の需要も拡大していくと予想されます。

膨大なデータを処理するための半導体需要が続く限り、構造的な制約を抱えながらも、市場全体の拡大という追い風を最も強く受けられるのが、シェアトップの東京エレクトロンなのです。

FY2027 主要製品群の売上成長見込み4/4

FY2027 主要製品群の売上成長見込み

出所:東京エレクトロン「2026年3月期 決算説明会資料」(p.16)を基にイズミダイズム作成

6. まとめ

東京エレクトロンは、半導体製造の前工程において不可欠な装置を提供し、特定の分野で世界シェア9割を握る稀有な企業です。

既存顧客との強固な関係性が最先端技術の開発において圧倒的な先行者優位を生み出し、他社の追随を許さないビジネスモデルを構築しています。

独占禁止法の壁などによりM&Aでの急激なシェア拡大は難しいものの、AI投資の過熱という巨大なトレンドの中で、市場全体のパイが拡大する恩恵を最大限に享受できるポジションにいます。

同社の業績や株価の動向を追う際は、個別の企業努力だけでなく、世界の半導体設備投資の波が現在どのフェーズにあるのかを俯瞰して見ることが重要です。

※本記事は東京エレクトロンの事業構造や決算情報を解説するものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

参考資料

  • 東京エレクトロン株式会社「2026年3月期 決算短信」
  • 東京エレクトロン株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」
  • 経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性」
  • Youtubeチャンネル「イズミダイズム」