3. なぜシェア9割を維持できるのか?参入障壁の正体
ここで一つの疑問が浮かびます。テクノロジーの進化が速い半導体業界において、なぜ東京エレクトロンはこれほど長期間にわたって圧倒的なシェアを維持し、他社にその座を奪われないのでしょうか。
泉田氏は、半導体メーカーが製造装置を選定する際の基準として「品質」「スループット(一定時間あたりの生産能力)」、そして「微細化への対応」を挙げます。
半導体は日進月歩で新しい技術が求められるため、装置メーカーは常に最先端の開発を続けなければなりません。
この「常に新しい技術が求められる」という環境こそが、実はトップシェア企業にとって最大の防御壁になっていると泉田氏は指摘します。
「半導体メーカーが次の新しい技術をやるときには、装置メーカーで今一番使っているところに最初に相談行くじゃない。ってなったら、その人が最初に一番技術の話を知って、そこから研究開発するじゃない。そうなるとその人がまた有利だよね」
例えば、スマートフォン向けの半導体をさらに小型化・高性能化したいと考えた半導体メーカーは、まず自社の工場で最も多く稼働し、信頼を置いている製造装置メーカーに「次はこういうものを作りたい」と相談を持ちかけます。
結果として、シェア9割を握る東京エレクトロンには、世界中の最先端の技術ニーズがいち早く集まります。その情報を基に他社に先駆けて研究開発を行い、次の世代の装置を完成させるため、後発の企業が追いつくことは極めて困難になるのです。
これが、同社が築き上げた強固な「先行者優位」のループです。
4. 高シェアゆえの「構造的制約」とM&Aの壁
圧倒的なシェアと強固な参入障壁を持つ東京エレクトロンですが、泉田氏はプロの投資家ならではの視点で、高シェア企業が抱える特有の「構造的制約」についても解説します。
一般的な企業であれば、さらなる成長を求めて競合他社を買収(M&A)し、シェアを拡大する戦略をとります。しかし、東京エレクトロンほどの規模になると、この王道のアプローチが難しくなります。
「他の会社を買ってシェアを上げるっていうのが、プレイヤーの数も限られているのでどんどん難しくなっているっていうのはあります」
半導体製造装置の市場は、求められる技術水準が極めて高いため、そもそも参入している企業の数が限られています。
その中で、すでに高いシェアを持つ東京エレクトロンが他社を買収しようとすると、各国の独占禁止法に抵触するリスクが高まり、当局からの承認を得ることが難しくなるのです。
【動画で解説】東京エレクトロンの強みは「シェア9割の半導体事業」なのか。元機関投資家が分析
自力で他社のシェアを奪うにしても、半導体工場は一度導入した装置を簡単には変更しません。急に別のメーカーの装置に変えて歩留まり(良品率)が落ちるリスクを恐れるためです。
この構造が意味することについて、泉田氏は次のように結論づけます。
「奪われにくいけど、自分たちの成長がマーケットの成長とイコールになっちゃうので、なかなか工夫してもマーケット以上には伸びないっていうことにはなっちゃうね」
つまり、東京エレクトロンの業績が伸びるかどうかは、同社の自助努力以上に、「世界中の半導体メーカーがどれだけ設備投資にお金をかけるか」という市場全体の波(マクロ環境)に大きく依存することになるのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日