3. PERを分解する魔法の公式「1 ÷ (R - G)」
金利が上がると高PER銘柄が下落する理屈はわかりましたが、具体的にどれほどのインパクトがあるのでしょうか。自分の資産が目減りしていく中で、投資家はどのように冷静さを保てばよいのかという聞き手の問いに対し、泉田氏は機関投資家が用いるシンプルな数式を紹介します。
それが「PER = 1 ÷ (R - G)」という公式です。
ここで登場する「R」は割引率(金利を含むもの)、「G」は企業の利益成長率を表します。この公式を使うと、金利のわずかな変化が株価にどれほど破壊的な影響を与えるかが一目でわかります。
泉田氏は、PER100倍という非常に期待値の高い銘柄を例に、3つのシナリオでシミュレーションを行います。
3.1 シナリオ1:基準となる状態(PER100倍)
仮に、割引率(R)が8%、利益成長率(G)が7%だとします。
この場合、R - G = 1%(0.01)となります。
公式に当てはめると「1 ÷ 0.01 = 100」となり、PERは100倍になります。
3.2 シナリオ2:金利が1%上昇した場合
ここで、企業の利益成長率(G)は7%のまま変わらないのに、マクロ環境の変化で金利が1%上がり、割引率(R)が9%になったとします。
すると、R - G = 2%(0.02)に広がります。
公式に当てはめると「1 ÷ 0.02 = 50」となり、なんとPERは50倍に半減してしまいます。
「金利が上がるだけで、利益の成長率は変わらないっていう前提で、金利が1%上がるだけでPER半分なんですよ」
企業側は何も失敗しておらず、これまで通り順調に成長を続けているにもかかわらず、世の中の金利がたった1%上がるだけで、理論上の株価は半分になってしまうのです。これが、フジクラの株価が8,000円から4,000円へと急落した背景にある強烈な力学です。
3.3 シナリオ3:最悪の悲観シナリオ
さらに恐ろしいのは、金利上昇と業績の失望が重なった場合です。金利が上がって割引率(R)が9%になったタイミングで、今回のフジクラのように決算がコンセンサスを未達となり、市場が「利益成長率(G)は6%に落ちるのではないか」と疑心暗鬼になったとします。
この場合、R - G = 3%(0.03)となります。
公式に当てはめると「1 ÷ 0.03 = 約33」となり、PERは33倍まで急低下します。株価はピーク時の3分の1以下にまで沈んでしまう計算です。
「金利と会社の利益成長率の見通しの組み合わせでPERってできてるから、ここがいわゆる高PER銘柄のリスク」
グロース株への投資は、高いリターンが狙える一方で、常にこうした金利と成長率の変動リスクと隣り合わせであることを、泉田氏は強く警告しています。
【動画で解説】フジクラ株価が半値に急落した理由は?元機関投資家が語る高PER株の落とし穴
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日