4. 経営のジレンマ:ROICと株主還元の両立

事業環境に強い追い風が吹いているINPEXですが、企業分析のプロである泉田氏は、同社が抱える財務上の「課題」にも鋭く切り込みます。

ここで鍵となるのが、「ROIC(ロイック)」と「WACC(ワック)」という2つの専門的な指標です。

セグメント別ROICと投資家期待値(WACC)の比較3/4

セグメント別ROICと投資家期待値(WACC)の比較

出所:INPEX「2025年12月期 決算説明会資料」(2026年2月12日)を基にイズミダイズム作成

「ROICというのは、投資した資産に対してどれぐらいのリターンが上がっているのかっていうのを見るものなんだけど、経営サイドから見ると自分たちがどれだけお金使ってどれだけリターンを得たかっていう指標なので、事業の収益性を判断するためには意味のある指標なんですよ。」

企業が事業に投じた資金からどれだけの利益を生み出したかを示すのが「ROIC(投資資本利益率)」です。

これに対し、投資家が「この会社に投資するなら、最低限これくらいは稼いでほしい」と要求する期待利回りのことを「WACC(加重平均資本コスト)」と呼びます。

一般的に、WACCの目安は7〜8%程度とされています。

INPEXが発表した2026年12月期の会社全体のROIC予想は「6.0%」です。これは、投資家が求める7〜8%という期待値(WACC)を下回っています。

インタビュワーが「期待値を下回るとどうなるのか」と尋ねると、泉田氏は機関投資家のシビアな論理を解説します。

「ROICが7から8%割るような事業に投資機会があったとしても、投資しちゃうと企業価値破壊しちゃうんですよ。投資したところで投資のリターンが6とか7未満だよってなると、そもそも投資する意味ないじゃんという判断にもなってしまうわけですね。」

投資家からすれば、期待する利回りを出せない事業に会社が巨額の成長投資を行うことは、かえって企業の価値を下げる行為に映ります。

それならば、投資をやめて自社株買いや配当といった「株主還元」にお金を回してほしい、というのが株式市場の要求です。

しかし、エネルギー企業であるINPEXにとって、将来の資源確保のための探鉱や開発への投資は事業の生命線です。

会社側は累進配当(減配せず配当を維持・増額する方針)や自社株買いといった株主還元を積極的に行いながらも、同時に莫大な成長投資を計画しています。

収益性(ROIC)が投資家の期待に届かない中で、将来のための投資と足元の株主還元をどう両立させていくのか。これが、現在のINPEX経営陣が直面している最大のジレンマと言えます。

【動画で解説】INPEXの権益(資源を採掘する権利)はインドネシアやオーストラリアなどオセアニア地域に集中