4. 経営のジレンマ:ROICと株主還元の両立
事業環境に強い追い風が吹いているINPEXですが、企業分析のプロである泉田氏は、同社が抱える財務上の「課題」にも鋭く切り込みます。
ここで鍵となるのが、「ROIC(ロイック)」と「WACC(ワック)」という2つの専門的な指標です。
「ROICというのは、投資した資産に対してどれぐらいのリターンが上がっているのかっていうのを見るものなんだけど、経営サイドから見ると自分たちがどれだけお金使ってどれだけリターンを得たかっていう指標なので、事業の収益性を判断するためには意味のある指標なんですよ。」
企業が事業に投じた資金からどれだけの利益を生み出したかを示すのが「ROIC(投資資本利益率)」です。
これに対し、投資家が「この会社に投資するなら、最低限これくらいは稼いでほしい」と要求する期待利回りのことを「WACC(加重平均資本コスト)」と呼びます。
一般的に、WACCの目安は7〜8%程度とされています。
INPEXが発表した2026年12月期の会社全体のROIC予想は「6.0%」です。これは、投資家が求める7〜8%という期待値(WACC)を下回っています。
インタビュワーが「期待値を下回るとどうなるのか」と尋ねると、泉田氏は機関投資家のシビアな論理を解説します。
「ROICが7から8%割るような事業に投資機会があったとしても、投資しちゃうと企業価値破壊しちゃうんですよ。投資したところで投資のリターンが6とか7未満だよってなると、そもそも投資する意味ないじゃんという判断にもなってしまうわけですね。」
投資家からすれば、期待する利回りを出せない事業に会社が巨額の成長投資を行うことは、かえって企業の価値を下げる行為に映ります。
それならば、投資をやめて自社株買いや配当といった「株主還元」にお金を回してほしい、というのが株式市場の要求です。
しかし、エネルギー企業であるINPEXにとって、将来の資源確保のための探鉱や開発への投資は事業の生命線です。
会社側は累進配当(減配せず配当を維持・増額する方針)や自社株買いといった株主還元を積極的に行いながらも、同時に莫大な成長投資を計画しています。
収益性(ROIC)が投資家の期待に届かない中で、将来のための投資と足元の株主還元をどう両立させていくのか。これが、現在のINPEX経営陣が直面している最大のジレンマと言えます。
【動画で解説】INPEXの権益(資源を採掘する権利)はインドネシアやオーストラリアなどオセアニア地域に集中
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日