3. 【業績も株価も絶好調に見える日立製作所】キャッシュフローが示す「次の一手」への課題
業績も株価も絶好調に見える日立製作所ですが、泉田氏は手放しで楽観視しているわけではありません。
プロの投資家は「事業を売却して得た資金や、本業で稼いだ現金を次にどう使うのか」を厳しくチェックします。
3.1 潤沢なフリーキャッシュフローの使い道は?
泉田氏は、企業の現金の出入りを示す「キャッシュフロー計算書」から、日立製作所の現状を読み解いていきます。
まず、本業で稼いだ現金を示す「営業活動によるキャッシュフロー」は、第3四半期累計で1兆1618億円と、前年同期から約5400億円も増加しています。事業が絶好調である証拠です。
一方で、将来のための投資に使った現金を示す「投資活動によるキャッシュフロー」はマイナス1743億円にとどまっており、前年同期(約4200億円の支出)と比べて大幅に減少しています。
その結果、企業が自由に使える現金である「フリーキャッシュフロー(営業CFと投資CFの合算)」は、前年同期から約8000億円も増加し、およそ1兆円という莫大な水準に達しています。
「株式市場は1回売却したら終わりじゃなくて、そのお金どうするのかということなんですよ」
泉田氏は、これだけ潤沢な現金があるにもかかわらず、新たな企業買収や大規模な投資が行われていない点に注目します。
3.2 借入金返済から透けて見える「投資機会の不在」
投資先が見つからないのであれば、株主への還元(配当の増額や自社株買い)を手厚くするという選択肢があります。
しかし、日立製作所の「財務活動によるキャッシュフロー」を見ると、配当金や自社株買いの金額は前年から少し増えた程度で、莫大なフリーキャッシュフローを使い切るほどの規模ではありません。
では、余った現金はどこへ行ったのでしょうか。泉田氏が着目したのは「長期借入債務の償還(借金の返済)」です。日立製作所は今年、約3800億円もの借入金を返済していました。
インタビュワーが「借金を返して身軽になっているなら良いことではないか」と推測すると、泉田氏は機関投資家ならではの鋭い視点を提示します。
「機会が来たらこれがチャンスだってドーンと買うっていうために貯めてるんだったら、確かに借入金は返さないですよね。そうなると、今この瞬間投資機会ないっていうことになる」
もし日立製作所が近い将来に大規模なM&A(企業買収)などの成長投資を計画しているのであれば、手元の現金は温存し、低金利で借りている借金はあえて返済しないのが企業の一般的な財務戦略です。
あえて借金を返済しているという事実は、裏を返せば「今のところ、これといって大きな投資機会(買収候補など)が見つかっていない」という会社からのシグナルだと泉田氏は分析しているのです。
【動画で解説】10年間で株価が急騰!日立製作所に何が起きたのか?
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日