1. 10年間で株価が急騰!日立製作所に何が起きたのか?
「日立製作所は老舗の企業だから、やっていることも変わらず地味なのではないか」という疑問が投げかけられると、泉田氏は「この会社が今後日本企業が成長していくヒントがいっぱいある」と応じ、まずは過去10年間の株価推移に注目しました。
1.1 大規模な事業売却と「攻めの投資」への転換
泉田氏によると、日立製作所の株価が市場平均(TOPIX)を大きく上回って上昇し始めたのは、2021年から2022年頃にかけてのことだと言います。それまで長らく株価が冴えなかった巨大企業に、一体何が起きたのでしょうか。
泉田氏は、株価が大きく変わった背景には「事業ポートフォリオの整理」があると指摘します。
「断続的にコアではない事業の売却、そしてその売却した資金等を原資にして成長するための企業への投資、これを繰り返してきた形になります」
かつての日立製作所は、産業用モーターをはじめ、ハードディスクドライブ、空調システム、物流、金融(リース)、電動工具、半導体製造装置、カーナビ、化学など、ありとあらゆる事業を手掛けていました。
しかし2010年代に入ると、これらの事業を次々と売却したり、子会社化してグループから切り離したりするドラスティックな改革を断行したのです。
そして、大きなターニングポイントとなったのが2020年です。
日立製作所は、スイスの重電大手であるABB社からパワーグリッド(送変電)事業を買収し、「日立ABBパワーグリッド」として新たなスタートを切りました。
泉田氏も当時、「よく買えたな」と驚くほどの巨大な買収劇であり、長年の「売却」から一転して「攻めの投資」に出た瞬間でした。
1.2 株式市場が評価した「選択と集中」
なぜ事業を整理して新しい事業を買収することが、株価の大幅な上昇につながるのでしょうか。
泉田氏は、株式市場が企業に求める「投資効率」という観点からその理由を解説します。
日立製作所のように何でもやっている企業に対して、投資家は以前から「なぜ収益性の低い事業を持っているのか」「自分たちが強みを持つ成長領域に資金を投資してほしい」と要求し続けていたと泉田氏は振り返ります。
不動産事業で安定した収益を得ているサッポロビールや、安定配当を続けるものの株価が横ばい傾向にある花王の例を引き合いに出し、泉田氏は投資家の心理を次のように代弁します。
「投資家はリターンの率で見るから金額じゃないのよ。だから投資効率がちゃんと担保されてますか、確保できてますかって話をした時に、いやこの事業持っててももっと大きなもので勝負した方がリターンが出ると思えば、投資家は言うからね」
つまり、絶対的な利益の額だけでなく、「持っている資産をどれだけ効率よく使って利益を生み出しているか」が問われるということです。
日立製作所は、株式市場からの厳しい要求に応え、無駄を削ぎ落として勝負をかけたことで、投資家からの高い評価(=株価の上昇)を勝ち取ったのです。
【動画で解説】10年間で株価が急騰!日立製作所に何が起きたのか?
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日