NISAやiDeCoほど本格的なものでなくても、社員に1万円の株式投信を買わせるだけでも金融教育としての意味があります。投資というものに慣れさせる、株価の動きが合理的でないということを学ばせる、といったメリットが見込まれるからです。
とりあえず1万円だけでも購入しておけば、後日それを増額して老後のための投資を行う際の心理的なハードルも下がるでしょう。
これも、購入した社員には1万円の補助金を出すことで「背中を押す」という選択肢を検討しましょう。安上がりでコストパフォーマンスの良い金融教育になるはずです。
ちなみに、これは会社にとっても大きなメリットがあるかもしれません。1万円でも株式投信を持つと、株価が気になって社員が毎日経済ニュースを読むようになるからです。仕事にもよるでしょうが、社員が経済ニュースを読むことが会社の仕事に役立つという場合も多いでしょう。
そもそも「投資が必要だ」という認識を持たせよう
日本人は、金融資産に占める銀行預金の比率が非常に高く、株式や外貨をあまり持っていないのが普通です。しかし、これは危険なことです。
現金や銀行預金は、安全資産だと思われていますが、インフレが来ると目減りする「リスク資産」なのです。
毎年1%のインフレでも、30年で30%の目減りになります。あるいは、大災害が起これば物価が高騰してしまう可能性もあります。そうなれば、何千万円も預金があっても老後の生活は安泰とは言えなくなってしまいます。
現金も株式も外貨もリスク資産なのですから、リスクを分散するために3種類の資産をバランスよく持つことが重要なのです。
社員向け説明会は4部構成で
社員向けの説明会は、以下のような4部構成ではいかがでしょう?
第1部は、退職金や企業年金、定年後再雇用制度等々について、人事部から社員向けに説明します。各自に老後資金の基礎となる生涯所得のイメージを持ってもらうためです。
第2部は、公的年金の仕組みの解説や、「2千万円報告書」に関する解説、等々です。「普通のサラリーマンは、退職前日に住宅ローンと金融資産が見合っていれば、何とかなる」といったことを理解してもらいましょう。
投資の必要性に関する説明等も重要ですね。「預金はインフレに弱いリスク資産であるから、分散投資として株や外貨も持つ方がむしろ安全だ」といった内容です。
第3部は、夫婦が各家庭の老後資金のシミュレーションをして、専門家に相談したり質問したりするコーナーです。会場にはFPに来てもらいましょう。
第4部は、当日でなくても良いのですが、NISAやiDeCoの申込書を記入する時間としましょう。これは、「どうせ書類を自宅に持ち帰ったら記入しないから」ということですね。背中を押すことも重要なのです。
余談ですが、筆者がこうした社員向け説明会の開催を説いていることを知って、第2部の講師を依頼してくださった会社があります。ありがたいことです。会社と従業員のためになり、国策にも貢献できるのは光栄なことです。よろこんで。
本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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塚崎 公義