春の訪れを感じる2026年3月中旬、政府は私たちの将来に大きく関わる法案を閣議決定しました。
2026年3月13日に閣議決定された「健康保険法等の一部を改正する法律案」は、特に後期高齢者の医療制度に大きな変化をもたらすものです。
この改正案の最も重要なポイントは、これまで主に年金収入などで判断されていた医療費の負担能力に、株式の配当金といった「金融所得」も含まれるようになる点です。
現在、約2070万人が加入する後期高齢者医療制度は、財源の約4割を現役世代からの支援金で賄っています。
今回の法改正は、単に「年齢」で区切るのではなく、個々の「財力」に応じた公平な負担を目指す、社会保障制度の大きな一歩といえるでしょう。
この記事では、新しい制度の仕組みや、私たちの医療費負担が今後どのように変わる可能性があるのかを、具体的なケースを交えながらわかりやすく解説していきます。
1. 後期高齢者医療制度の現状:約2070万人を支える現役世代の負担
日本の後期高齢者医療制度には、令和7年度の予算ベースで約2070万人が加入しています。
この制度を支える財源の内訳を見ると、加入者本人が支払う保険料が約1割、税金などの公費が約5割を占めています。
そして、残りの約4割は現役世代からの「支援金」によって賄われているのが現状です。
この財源バランスをどのように適正化していくかが、制度を維持するための重要な課題となっています。
2. 後期高齢者の保険料と医療費の自己負担割合、その決定方法とは?
後期高齢者が納める保険料は、加入者全員が同じ額を負担する「均等割」と、それぞれの所得に応じて金額が変わる「所得割」を合計して算出されます。
医療機関の窓口で支払う自己負担の割合(1割から3割)も、基本的には年金をはじめとする「フローの所得(毎年の収入)」を基準に決められています。
- 3割(現役並み所得):課税所得145万円以上(年収単身:約383万円以上、複数:約520万円以上)
- 2割(一定以上所得):課税所得28万円以上(年金収入+そのほかの合計所得金額が単身:200万円以上、複数:320万円以上)
- 1割(一般・低所得):上記以外
しかし、現行の制度では、株式の配当金といった「金融所得」をこの判定基準に反映させることが難しいという課題がありました。
3. 2026年度から「医療費の負担額算定に金融所得を反映させる」方針
政府は、個々の負担能力をより正確に把握するため、2026年度から医療費の負担額算定に金融所得を反映させる方針を固めました。
この背景には、現役世代と高齢者世代との間に存在する大きな「資産格差」があります。
財務省が公表した「社会保障①」という資料によれば、年収が200万円に満たない層でも、高齢者世帯の貯蓄額は若者世帯より1000万円以上多い場合が多く、年間の所得だけでは判断できない経済的な余裕があることがわかります。
3.1 年収500万円でも負担は違う?3つのケースで見る現行制度の課題
現行の制度下では、同じ「年収500万円」であっても、収入の種類(給与か配当か)や確定申告をするかどうかによって、負担額が大きく異なる場合があります。
具体的に3つのモデルケースを比較して、その違いを見ていきましょう。
ケース1:配当収入500万円(確定申告なし)の高齢者
- 窓口負担:1割 / 年間保険料:約1万5000円
- 実態:確定申告をしない場合、自治体からは「所得ゼロ」と見なされ、最も負担が軽くなります。
ケース2:配当収入500万円(確定申告あり)の高齢者
- 窓口負担:3割 / 年間保険料:約52万円
- 実態:一方で、同じ配当収入でも確定申告をすると、保険料はケース1の34倍以上に増加します。このように、申告するかどうかで負担に大きな差が生まれているのが現状です。
ケース3:給与収入500万円の現役世代
- 窓口負担:3割 / 年間保険料:約25万円
- 実態:給与所得者の場合、保険料は給与から天引きされるため、「申告しない」という選択はできません。
特に注目したいのは、ケース1とケース2で生じる「50万円以上の差額」です。
保有している資産の額に関わらず、所得の受け取り方次第で保険料負担が最小限(均等割のみ)に抑えられるという、制度上の課題が明らかになっています。
4. 年齢から負担能力へ:後期高齢者医療制度が目指す公平な仕組み
今回解説した金融所得の反映は、政府が進める社会保障制度改革の重要な柱の一つです。
後期高齢者医療制度では、保険料の計算や窓口負担割合の判定に、金融所得をより公平に反映させるための新しい仕組みが導入される予定です。
具体的には、金融機関などに対して、配当金の支払い情報などを記載した「支払報告書(法定調書)」を、保険者である自治体へオンラインで提出することが義務付けられます。
この仕組みが導入されると、本人が確定申告をしなくても、自治体が金融機関からの情報をもとに個人の金融所得を直接かつ正確に把握できるようになります。
つまり、金融所得を自動的に照会・把握する体制が整うわけです。
ただし、この新制度を円滑に導入するには、金融機関側のシステム改修や国民への十分な周知期間が必要です。
そのため、制度が社会に完全に定着し、本格的に機能し始めるまでには、施行から数年程度の時間が必要になると見込まれています。
公的な情報をこまめに確認し、制度の変更に備えておくことが、将来の安心につながるでしょう。
※当記事は再編集記事です。




