「申請しないと、1円も振り込まれない」。これが日本の公的年金における鉄則です。
2026年に65歳の節目を迎える1961年(昭和36年)生まれの方は、いよいよ老齢年金の受給が本格化します。しかし、たとえ公金受取口座を登録していても、自動的に受給が始まるわけではありません。
特に「特別支給」を受けている方が陥りやすい再申請の盲点など、手続きには注意が必要です。
今回は、4年連続の増額となった2026年度の最新改定額を踏まえ、手続きの基本から「働き方・年収別の受給額シミュレーション(目安)」まで、失敗しないための要点を整理してお伝えします。
1. 【年金のキホンを整理】日本の公的年金制度は「2階建て構造」
まずは、日本の年金制度の基本である「2階建て構造」と呼ばれる仕組みから確認しておきましょう。
- 国民年金(1階部分):日本に住む20歳以上60歳未満の全員に加入義務があります。
- 厚生年金(2階部分): 公務員や会社員などが、国民年金に上乗せして加入します。
いずれも原則として支給開始は65歳からで、保険料を納めた期間が10年以上などの受給要件を満たしている場合、次の組み合わせで年金を受け取ることになります。
- 国民年金のみに加入していた人…「老齢基礎年金」
- 厚生年金に加入していた人…「老齢基礎年金」+「老齢厚生年金」
2. 年金の「空白期間」とは?例外的に「空白期間に受給可能」となる2つのケースも
年金保険料の支払いは原則として60歳で終了しますが、年金の受け取りは65歳から始まります。
そのため、60歳から65歳までの間には年金を受給できない期間が生じ、この期間は一般的に「空白期間」と呼ばれています。
ただし、例外的に「空白期間でも受給できる」ケースが2つあります。
2.1 ケース①:特別支給の老齢厚生年金
厚生年金は、かつては60歳から受け取れる制度でしたが、支給開始年齢が段階的に65歳へ引き上げられ、現在は原則65歳からの受給となっています。
その経過措置として、以下のような一定の生年月日以前に生まれた人については、65歳になるまでの間「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れる仕組みが設けられています。
- 男性…1961(昭和36)年4月1日
- 女性…1966(昭和41)年4月1日
さらに、男女共通の条件として「老齢基礎年金の受給資格期間(10年)を満たしていること」「厚生年金保険などに1年以上加入していたこと」「生年月日に応じた受給開始年齢に達していること」が必要です。
また、受給開始年齢は生年月日や性別によって異なるため、その点にも注意が必要です。
2.2 ケース②:繰上げ受給
「65歳まで待って受給するのが難しい」という場合は、希望すれば支給開始を前倒しする「繰上げ受給」を選ぶことができます。
ただし、受給を1カ月早めるごとに年金額は0.4%ずつ減額され(最大24%)(※)、この減額率は一生続く点に注意が必要です。
※1962(昭和37)年4月1日以前生まれの方の減額率は、0.5%(最大30%)
3. 「年金請求書」が届いたら絶対すべき手続きとは?
年金を受け取るためには、「年金請求書」の提出が必要です。
この書類は、基礎年金番号や氏名などがあらかじめ記載された状態で、日本年金機構から郵送されます。
3.1 「初めて年金を請求」する場合の手続き方法
- 届く時期:65歳(または特別支給の開始年齢)に到達する3カ月前
- 提出時期: 誕生日の前日(受給権発生日)以降
- 提出先: 年金事務所、または「街角の年金相談センター」
3.2 「特別支給の老齢厚生年金」を受給している人が65歳に達した場合の手続き方法
「特別支給の老齢厚生年金」をすでに受け取っている人は、65歳になると年金の区分が「本来の老齢年金」に切り替わるため、改めて請求手続きを行う必要があります。
- 届く時期: 65歳の誕生月の初め(1日生まれは前月初め)
- 提出時期: 誕生日の前日以降
- 提出先: 日本年金機構本部へ郵送(または電子申請)
年金請求書の提出が遅れると、年金の受け取り開始が遅れたり、振り込みまでに時間がかかったりするため注意が必要です。
3.3 【補足事項】「年金請求書」はいつまでに提出すればいい?
年金を適切な時期から受け取るためには、「誕生月の末日まで(1日生まれの場合は前月末日)に提出する」という期限を守ることが大切です。
期限を過ぎても受給権がなくなるわけではありませんが、実際の振り込みが数カ月遅れる可能性があります。
年金は、受けられるようになってから5年を過ぎると、時効により受け取れなくなる分が生じる場合があります。
請求書が届いたらそのままにせず、適切なタイミングで必ず返送するようにしましょう。
4. 2026年度の年金額が決定。厚生年金は+2.0%、国民年金は+1.9%に増額
2026年1月23日、厚生労働省は「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」を公表し、2026年度(令和8年度)の年金額改定率を明らかにしました。近年の物価や賃金の動向を反映した結果、4年連続でのプラス改定となっています。
- 厚生年金(報酬比例部分): 2.0%の引き上げ
- 国民年金(老齢基礎年金): 1.9%の引き上げ
4.1 月額いくら増える?モデルケースで見る年金受給額
- 国民年金(満額): 月額 7万608円(前年度から約1300円の増額 ※1) ※昭和31年4月1日以前に生まれた方は月額6万9108円
-
厚生年金(夫婦2人の標準モデル):
月額 23万7279円(前年度から約6000円の増額 ※2)
※2 平均的な収入(賞与込みで月額換算45万5000円)で40年間就業した夫と、その期間に扶養されていた専業主婦の妻という世帯のケース
「夫婦で月額約23万7000円なら生活できそう」と感じるかもしれませんが、これはあくまで会社員の夫と専業主婦の妻という特定のモデル世帯を想定した金額です。共働きや単身、自営業など、ライフスタイルが多様化する現代では、この数字が必ずしも自分に当てはまるとは限りません。
次の章では、より現実に即した働き方別の受給額シミュレーションを見ていきましょう。
5. 厚生年金メインで【平均年収610万円×40年勤めたら】65歳以降の年金目安は月額いくら?
今回の年金額改定の発表に際し、厚生労働省は「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」の中で、多様な働き方に応じた年金額の概算も公表しています。
ご自身の経歴に近いパターンを参考に、将来の受給額をイメージしてみてはいかがでしょうか。
5.1 パターン1:厚生年金が中心の会社員男性
- 想定:平均年収約610万円(月額換算50万9000円)で40年間就業
-
年金月額の目安: 17万6793円
- (内訳:基礎年金部分が約7万円、厚生年金部分が約10万7000円)
5.2 パターン2:国民年金が中心の自営業・フリーランス男性
- 想定:厚生年金への加入期間が短く(約7年)、大部分が国民年金の加入期間
-
年金月額の目安: 6万3513円
- この金額だけで老後の生活を賄うのは簡単ではないため、iDeCoやNISAなどを活用した資産形成が重要になります。
5.3 パターン3:厚生年金が中心の共働き女性
- 想定:平均年収約427万円(月額換算35万6000円)で33年間就業
- 年金月額の目安: 13万4640円
5.4 パターン4:国民年金が中心の自営業女性
- 想定:厚生年金への加入期間が短い(約6年)
- 年金月額の目安: 6万1771円
5.5 パターン5:第3号被保険者期間が長い専業主婦
- 想定:扶養内でパートタイマーとして働いていた期間が長い
- 年金月額の目安: 7万8249円
このシミュレーションからわかるように、同じ期間働いたとしても、厚生年金への加入期間や年収によって受給額に月10万円以上の差が生まれることがあります。
その一方で、「厚生年金メインで【平均年収610万円×40年勤めたら】65歳以降の年金目安は月額いくら?」というこのシミュレーション結果は、似たキャリアを歩んできた方にとって、非常に精度の高い「将来のモノサシ」となります。
まずはこの確かな数字を自分自身の基準(ベース)に据え、老後の不足分をどう補うか、具体的なマネープランを描き始めてみましょう。
厚生年金の加入状況によって受給額の「土台」がはっきり見えるからこそ、特に国民年金が中心となる方は、公的年金だけに頼らない資産形成を早めに検討することが、安心した老後生活への確実な一歩となります。
6. まとめにかえて
公的年金は、自ら届け出を行うことで初めて支給が始まる「申請主義」の制度です。2026年度はプラス改定により受給額が増額されていますが、その恩恵を漏れなく受け取るためには「年金請求書」の確実な提出が欠かせません。
本記事で算出した「ライフスタイル別の受給額の目安」は、これからの生活設計における重要な土台となります。ご自身の基準額を把握したら、次は「手続き」という最後の大切なステップを忘れないようにしましょう。
65歳の誕生日前後に届く請求書を放置せず、速やかに手続きを済ませること。それが、現役時代に積み上げてきた権利を、豊かな老後の安心へと変えるもっとも確実な方法と言えるでしょう。
参考資料
- 日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金を受給するときの手続き」
- 日本年金機構「65歳時の年金の手続き(特別支給の老齢厚生年金を受給している方)」
- 日本年金機構「これから老齢年金を受給する方へ」
- 日本年金機構「老齢年金請求書の記入方法等」
- 日本年金機構「年金の繰上げ受給」
- 日本年金機構「老齢年金請求書の電子申請ができる期間を教えてください。」
マネー編集部年金班