4月は新年度のスタートに伴い、再就職や働き方の変化が起こりやすい時期です。
シニア世代にとっては「働きながら年金を受け取る」という選択が一般的になりつつあり、それに関連する公的給付の重要性も高まっています。
しかし、こうした制度の多くは申請が前提であり、手続きをしなければ“0円のまま”受け取れないケースが少なくありません。
特に雇用保険の給付や、年金に上乗せされる制度は見落とされやすい分野です。
本記事では、60歳・65歳以上が対象となる公的給付を「雇用保険3制度」と「年金上乗せ2制度」に分けて整理し、さらに2025年の制度改正ポイントも含めて、わかりやすく解説します。
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1. 【人生100年時代】シニアに必要なのは「仕事」と「年金」の両立視点
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によれば、65~69歳では男性の6割以上、女性の4割以上が働いています。
さらに、70歳代前半でも男性は4割弱、女性は2割以上が就業を続けています。
年齢が上がるにつれて働く人の割合は徐々に減るものの、シニア全体で見ると就業者数は増加傾向にあります。
ただし、60歳を過ぎると賃金が低下するケースが少なくありません。
また、現役時代と同じ条件の仕事に就くことが難しかったり、健康面の理由で働き続けることが困難になったりする場合もあります。
厚生労働省「令和6年簡易生命表の概況」によると、日本人の平均寿命は男性が81.09年、女性が87.13年です。
老齢年金を受け取る世代である65歳以上のシニアにとって、公的年金に加えて「働くこと」は、長い老後生活を支える大切な要素といえるでしょう。
次章以降では、シニア向けの給付金や手当のなかでも、申請しなければ受け取れない制度として、「雇用保険に関係する給付」と「公的年金に上乗せされる給付」について整理して解説します。
2. シニアが対象になる「雇用保険」の給付制度3つ
働き続けたいシニアを支援する制度として、「雇用保険」に関係する給付金を3つ紹介します。
2.1 再就職手当(65歳未満)
再就職手当は、失業した人が早い段階で再就職したり、事業を開始したりすることを後押しするために支給される手当です。
失業してから再就職や起業までの期間が短いほど、受け取れる手当額は多くなります。
再就職手当の支給要件
- 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給
再就職手当の給付率
- 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」
再就職手当の額
また、再就職手当を受給して新しい職場に就き、その職場で6カ月以上雇用された場合で、再就職後6カ月間の賃金が離職前より低いときは、「就業促進定着手当」の支給対象となります。
2.2 高年齢雇用継続給付
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満で働き続ける人を対象とした雇用保険の給付です。
60歳時点と比べて賃金が一定の割合以上下がった場合に支給されます。
高年齢雇用継続給付:支給要件
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合
高年齢雇用継続給付:支給率
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%
【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)
また、老齢年金を受給しながら厚生年金に加入して「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合は、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる可能性がある点にも注意が必要です。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%
2.3 高年齢求職者給付金(65歳以上)
高年齢求職者給付金は、65歳以上の雇用保険加入者が失業した場合に、一時金として支給される給付です。
高年齢求職者給付金【誰がもらえる?】支給要件
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
- 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
- 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
- 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す
高年齢求職者給付金:給付金額
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
- 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額
65歳未満の人が受け取る「失業手当」は、4週間ごとに失業の認定を受けながら支給されますが、高年齢求職者給付金は一括で支給される点が大きく異なります。
3. シニアが対象になる「老齢年金に上乗せされる」給付制度2つ
シニアの生活と深く関わる公的年金には、本来の老齢給付(老齢年金)に加えて、補完的な役割を持つ制度がいくつか設けられています。
今回はそのなかから、老齢年金を受給している人が一定の条件を満たした場合に「年金へ上乗せして支給される」2つの給付について紹介します。
3.1 年金生活者支援給付金
年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給している人のうち、一定の所得要件を満たす場合に支給される制度です。
対象となる年金の種類ごとに、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金に対応した給付金が用意されています。
ここでは、シニアの生活と特に関わりが深い「老齢年金生活者支援給付金」に焦点を当てて紹介します。
老齢年金生活者支援給付金の支給要件
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
老齢年金生活者支援給付金の給付基準額
老齢年金生活者支援給付金の給付基準額(2025年度)は月額5450円です。
ただし、この金額はあくまで基準となる額であり、実際の支給額は月額5450円を基準として、保険料納付済期間などをもとに計算されます。
支給額は、下記①と②を合計した金額となります。
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5450円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1151円 × 保険料免除期間 / 被保険者月数480月
たとえば、国民年金保険料を全期間(40年間)納付した場合、2025年度は「月額5450円=年額6万5400円」の給付金が支給されます(昭和16年4月1日生まれまでの方は計算が異なります)。
3.2 加給年金
「加給年金」は、いわば年金における扶養手当(家族手当)のような制度です。
老齢厚生年金を受給している人が、年下の配偶者や子どもを扶養している場合、一定の要件を満たすと年金に上乗せして支給されます。
加給年金の支給要件
- 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
- 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)
※または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
これらは、前述の時点で「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの子、もしくは1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合に、年金へ上乗せして支給されます。
ただし、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)や退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利を持っている場合、または障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合には、配偶者加給年金は支給されません。
加給年金の給付額
一例として、2025年度「加給年金」の年金額(年額)は以下のとおりです。
- 配偶者:23万9300円
- 1人目・2人目の子:各23万9300円
- 3人目以降の子:各7万9800円
また、老齢厚生年金を受給している人の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額には3万5400円~17万6600円の特別加算が上乗せされます。
加給年金は、対象となる配偶者が65歳になると支給が終了します。
ただし、その配偶者が老齢基礎年金を受給する場合には、一定の要件を満たすことで「振替加算」が支給されます。
4. 【2026年施行】年金カットの壁が「月65万円」へ大幅UP!働くシニアの収入に関わる法改正のポイント
2025年6月13日、私たちの将来のマネープランに直結する「年金制度改革関連法」が国会で成立しました。
今回の法改正は、多様化する現代のライフスタイルに年金制度を適応させるための大規模なアップデートです。
パートタイマーの社会保険加入を阻んでいた「106万円の壁の撤廃」や、「遺族厚生年金の男女差解消」など、全世代に影響する見直しが盛り込まれました。
その中でも、現在働いている、あるいはこれから働く予定のシニア世代にとって朗報となるのが「在職老齢年金制度」の大幅な基準引き上げです。
4.1 そもそも「在職老齢年金」の働き損とは?
在職老齢年金とは、60歳以降に働きながら「老齢厚生年金」を受け取る際、給与や賞与(報酬)と年金の合計額が一定の基準を超えると、年金の一部または全額がカット(支給停止)されてしまう仕組みです。
※なお、カットの対象となるのは厚生年金部分のみ
これまで多くのシニア層が、「これ以上働くと年金を減らされて損をする」と考え、あえて労働時間や日数をセーブする「働き控え」を余儀なくされてきました。
支給停止の壁が「51万円」から「65万円」へ引き上げ
年金がカットされるボーダーライン(支給停止調整額)は、賃金や物価の変動に合わせて毎年少しずつ見直されてきました。
- 2022年度:47万円
- 2023年度:48万円
- 2024年度:50万円
- 2025年度:51万円
このように数万円単位での微増が続いていましたが、2026年(令和8年)4月より適用される新ルールでは、この基準額が一気に65万円へと大幅に引き上げられます。
2026年4月以降は、年金カットのペナルティを過度に恐れる必要はなくなります。
「働き損」という心理的ハードルから解放され、より自由に、自分らしく収入を増やす働き方を選べる時代が到来したと言えるでしょう。
5. 申請しないと受け取れない|5つの給付と制度改正を踏まえた今後のポイント
シニア世代が活用できる公的給付には、年金とは別にさまざまな制度がありますが、その多くは申請しなければ受給できません。
特に雇用保険の給付や年金の上乗せ制度は、働き方や家族構成の変化によって対象になるため、気づかないまま見逃してしまうケースもあります。
また、2025年の制度改正により在職老齢年金の仕組みも見直され、働きながら年金を受け取る環境は変化しつつあります。
4月は生活や収入環境が変わりやすいタイミングだからこそ、制度を整理する絶好の機会です。
まずは自分が対象となる給付がないかを確認し、必要に応じて早めに申請手続きを進めることが、老後の家計を安定させる重要な一歩となります。
参考資料
- 内閣府「令和7年版高齢社会白書」第2節 高齢期の暮らしの動向1 就業・所得
- 厚生労働省「令和6年簡易生命表」1 主な年齢の平均余命
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
マネー編集部社会保障班