新NISAのスタート以降、資産運用はかつてないほどの盛り上がりを見せています。2025年12月末時点で、NISA口座数は2826万口座に達し、累計買付額は71兆円を突破。政府目標を大きく前倒しで達成する形となりました。
その一方で、将来への不安から投資に資金を回しすぎ、現在の生活を極端に切り詰める「NISA貧乏」という言葉が取り沙汰されています。しかし、この現象は本当に日本社会に蔓延しているのでしょうか?
家計診断・相談サービス「オカネコ」を運営する株式会社400Fの最新調査と、政府の家計調査データから、その実態を検証します。
1. NISA貧乏は本当か?月17万円は「貯金」?毎月の家計収支を見る
「投資のしすぎで生活が苦しい」というイメージとは裏腹に、マクロデータからは全く異なる姿が浮かび上がります。
2025年「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」における、毎月の家計収支をみていきましょう。
グラフを見ると、実収入65万3901円のうち、税金や社会保険料を除いた「可処分所得(手取り)」は53万2408円。ここから生活費を差し引いた「黒字」は18万6111円にのぼります。
1.1 投資額「月5000円」資産形成のメインは今も「預貯金」
次に、家計の中で実際に「貯蓄や投資」へ回ったお金(金融資産の純増)の内訳を詳しく見てみましょう。ここでは、家計調査の項目である「金融資産の純増(=その月に増えた資産の合計)」という数字を使って解説します。
「新しく増えた資産の合計」金融資産純増(月平均)の内訳
- 新しく増えた資産(金融資産の純増)の合計:約19.4万円
┗銀行などの預貯金:約17.7万円
┗株や投資信託(NISA等):5059円
┗保険の積立てなど:約1.2万円
※家計収支上の「黒字(18万6111円)」は住宅ローンの返済なども含みますが、実際に預金や投資に回ったのは、この「金融資産の純増(約19.4万円)」にあたります。
内訳をみると、積み上がった資産のほとんどが「預貯金」であり、新NISAを含む「有価証券」への振り分けはわずか2.6%程度(約5000円)に過ぎないという驚きの現実が浮かび上がります。
2. 若者の「消費支出3.6%増」はゆとりか、悲鳴か?インフレ下で揺れる家計のリアル
「NISA貧乏」に陥りやすいとされる40歳未満の若年層ですが、家計調査からは、消費を極端に犠牲にしている様子は見られません。
- 消費支出: 前年比で実質3.6%増加
- 可処分所得(手取り): 実質1.1%増加
ここでの「支出増」には、歴史的な賃上げが手取りを押し上げた効果も含まれます。しかし、より大きな要因は「物価高騰によって、同じ生活を維持するだけでもコストが上がってしまった」という、インフレによる強制的な支出増でしょう。
手取りの伸び以上に支出が増えている現状は、決して楽観視できる「ゆとり」ではありません。むしろ、「投資を優先して生活を切り詰める」ことすら難しいほど、足元の物価高への対応に追われている若年層の切実な実態が浮かび上がります。
3. 「利益は出ているが、お金がない」オカネコ調査で見えた利用者の苦悩
では、なぜ「NISA貧乏」という言葉がこれほど注目されるのでしょうか。株式会社400Fが全国の「オカネコ」ユーザー382人を対象に実施した「オカネコ 新NISA3年目の利用実態調査」から、利用者の本音が見えてきます。
3.1 9割超が「プラス」を享受する成功体験
調査によると、新NISA開始から現在までの運用成績は驚くほど好調です。
- 運用成績がプラスの人:90.2%
(うち「+20%超」の大きな利益が出ている人が44.9%) - 制度への満足度:93.8%
このように、多くの人が資産増の成功体験を得ており、制度自体には高い満足度を示しています。
3.2 満足度9割超の裏側で「43%」が直面する資金捻出の壁
しかし、一部の不満層(計6.3%)にその理由を尋ねると、意外な回答が浮き彫りになりました。「期待したほど利益が出ていない(37.5%)」を抑え、最も多かったのは「投資資金の捻出が苦しい(43.8%)」という声でした。
3.3 「成功体験」が招くオーバーペース
昨今の物価高騰が家計を圧迫するなか、運用成績が良いからこそ「もっと積み立てなければ」と無理をしてしまう。その結果、日々の生活費を削ってまで入金に回す、本末転倒な状況が生まれています。投資資金の確保が継続性を左右する重要な変数となっており、この「捻出の限界」を感じている層が、警鐘としての「NISA貧乏」の正体と言えるでしょう。
調査概要
調査名:オカネコ 新NISA3年目の利用実態調査
調査方法:WEBアンケート
調査期間:2026年1月10日(土)~2026年1月12日(月)
回答者:全国の『オカネコ』ユーザー382人
回答者の年齢:30代以下18.6%、40代26.4%、50代32.2%、60代以上22.8%
回答者の世帯年収:400万円未満24.4%、400万円以上600万円未満20.7%、600万円以上800万円未満16.0%、800万円以上1,000万円未満12.8%、1,000万円以上1,200万円未満6.3%、1,200万円以上13.1%、わからない6.7%
4. 投資と消費の「黄金比」を見つけるために
将来への備えはもちろん大切ですが、20代・30代という貴重な時期にしかできない経験や自己投資にお金を使うことも、人生のトータルリターンを考えれば非常に重要です。
現在、国もJ-FLEC(金融経済教育推進機構)を通じて、適切なマネープランニングの普及を進めています。
ブームや周囲の好成績に惑わされて「極端な節約投資」に走るのではなく、「今を楽しむお金」と「将来に備えるお金」の最適なバランスを見極めること。それこそが、本当の意味での資産形成の第一歩となります。
参考資料
- 金融庁「NISAの利用状況(速報値)」
- 総務省「家計調査報告〔家計収支編〕 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 株式会社400F(フォーハンドレッド・エフ)「オカネコ 新NISA3年目の利用実態調査」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「J-FLECについて」
村岸 理美