3. 年金の目減りと物価高:額面ではなく「実質購買力」で考える老後家計

前章にて、75歳以上の後期高齢シニア夫婦の家計を見ると、平均では毎月およそ2万円の赤字となっていることがわかりました。

しかし、月々の赤字額の他にも注目すべきなのは、物価の動きが家計に与える影響です。

3.1 年金は緩やかにしか増えない

公的年金は物価や賃金の動向を踏まえて改定されますが、その増減は急激なものではありません。マクロ経済スライドの仕組みによって調整されるため、物価が上昇しても同じペースで受給額が伸びるとは限らないのが現実です。

つまり、名目上の年金額が大きく変わらなくても、日々の買い物に充てられる「実質的な価値」は徐々に目減りしていく可能性があります。

3.2 生活費はじわじわと押し上げられる

一方、食料や光熱費、日用品など、日常生活に欠かせない支出は、物価の影響を直接受けます。

消費者物価指数CPI:2026年(令和8年)1月分2/5

2026年1月発表の消費者物価指数CPI

出所:総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)1月分」

  • 総合指数は2020年を100として112.9…前年同月比は1.5%の上昇
  • 生鮮食品を除く総合指数は112.0…前年同月比は2.0%の上昇
  • 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は111.4…前年同月比は2.6%の上昇

消費者物価指数をみてもわかる通り、物価は確実に上昇し続けています。

この構造のもとで物価が上昇すると、削減の余地が小さい支出から先に負担が重くなります。結果として、これまで月2万円程度だった赤字が、気づかぬうちに拡大していく可能性も否定できません。

3.3 問題は「赤字額」よりも購買力の低下

重要なのは、家計簿上の赤字額だけではありません。年金という安定収入があっても、そのお金で買えるモノやサービスの量が減っていけば、生活水準は実質的に低下します。

老後家計を考えるうえでは、「いくら受け取っているか」ではなく、「その金額で何がどれだけ賄えるのか」という実質購買力の視点が欠かせません。

物価上昇は一度に家計を揺さぶるのではなく、時間をかけてじわじわと影響を及ぼします。その影響は、貯蓄を取り崩すペースにも直結します。だからこそ、「資産寿命」を考える際にも、この前提を踏まえておく必要があります。