与野党が昨年に基本合意した内容では、いわゆる「年収の壁」について、これまでの103万円から178万円へと大幅に引き上げられることとなっています。
とくにアルバイトなど時給制で働いている人にとっては、年末の「働き控え」をしなくても済むようになるかもしれません。
そんなメリットがある「年収の壁」の動きについて、世の中の人々はどう受け止めているのでしょうか。
そこで今回は「働き控え」のリアルな実態と、「年収の壁」が動くことに対する声を探ります。
1. 「年収の壁」についてどう思う?
シェアフル株式会社が実施した「年収の壁に関する実態調査」を見ていきましょう。
1.1 調査概要
- シェアフルユーザーを対象にしたWeb調査
- 調査対象:日本全国の10代~70代の男女
- 実施時期:2025年12月20日(土)
- 有効回収数:1万5185サンプル
1.2 2025年は「年収の壁」への意識がやや低下傾向に?
年収の壁を意識していますか?
2025
- 意識している: 40.0%
- 意識していない: 60.0%
2024
- 意識している: 47.0%
- 意識していない: 53.0%
まず、働く人々が日頃から「年収の壁」をどの程度意識しているのかを見てみましょう。
2024年には47.0%の人が「意識している」と回答していましたが、2025年には40.0%へと7ポイント減少しています。「年収の壁」以外にも多くの課題があるからか、あるいは働き方の多様化が進んだ結果なのか、壁を意識せずに働く層がわずかに増えているようです。
とはいえ、約4割が意識しているということからも、「年収の壁」は重要な問題だとわかります。
2. 2025年12月の就業調整、約3割が「大幅な調整」を実施
2.1 2025年12月は、本来就業できた時間からどれくらい調整をしましたか?
- 例月の100%(調整していない): 38%
- 例月の0%(1時間もはたらいていない): 31%
- 例月の60%〜99%程度: 11%
- 例月の40%〜59%程度: 10%
- 例月の1%〜39%程度: 10%
2.2 2025年12月は、本来就業できた時間からどれくらい調整をしましたか?(属性別)
正社員・派遣社員・契約社員
- 例月の100%(調整していない): 37%
- 例月の0%(1時間も働いていない): 34%
- 例月の40%〜59%程度: 10%
- 例月の1%〜39%程度: 10%
- 例月の60%〜99%程度: 9%
アルバイト・パート
- 例月の100%(調整していない): 48%
- 例月の0%(1時間も働いていない): 19%
- 例月の60%〜99%程度: 13%
- 例月の40%〜59%程度: 10%
- 例月の1%〜39%程度: 9%
学生
- 例月の100%(調整していない): 35%
- 例月の0%(1時間も働いていない): 25%
- 例月の60%〜99%程度: 18%
- 例月の40%〜59%程度: 12%
- 例月の1%〜39%程度: 9%
主婦・主夫
- 例月の0%(1時間も働いていない): 36%
- 例月の100%(調整していない): 31%
- 例月の60%〜99%程度: 12%
- 例月の1%〜39%程度: 11%
- 例月の40%〜59%程度: 9%
その他
- 例月の0%(1時間も働いていない): 37%
- 例月の100%(調整していない): 35%
- 例月の1%〜39%程度: 10%
- 例月の60%〜99%程度: 9%
- 例月の40%〜59%程度: 9%
実際に年末の時期、どれほどの人が働く時間をコントロールしたのでしょうか。2025年12月の実績を見ると、本来就業できた時間から全く調整をしなかった人は38%にとどまりました。
一方で、就業時間を例月の「1%〜39%程度」に抑えた人が10%、「0%(1時間も働いていない)」という人が31%にのぼっています。これらを合わせると、実に4割以上の人が年末に大幅な就業調整を行っていたことがわかります。
属性別に見ると、とくに「主婦・主夫」層で調整が顕著です。この層では「例月の0%」と回答した人が36%と最も多く、年収制限を守るためのブレーキが強くかかっている実態が浮き彫りになりました。
家族の収入が高い場合、年収の壁を超えると家族の税金が上がってしまい、働いたのに手取りが下がりかねないという事態になっていることが考えられます。
また、我々のような学生も25%が「例月の0%」と回答しています。私の知り合いにも「年収の壁」があるせいで、年末の一番忙しいときに働きたくてもあまり働けなかったという人がいました。
シフトを組むときには気を付けていても、突然の残業があると計画が狂うということも。その結果、12月のシフトはほとんど入れられないということになってしまうのでしょう。
3. 背景にある「経済的なゆとり」の欠如
3.1 経済的なゆとりはあると感じますか?
- 全くゆとりがない: 31.6%
- あまりゆとりがない: 29.9%
- ゆとりがある: 22.0%
- ある程度ゆとりがある: 16.5%
3.2 経済的なゆとりはあると感じますか?(属性別)
正社員・派遣社員・契約社員
- 全くゆとりがない: 31%
- あまりゆとりがない: 29%
- ゆとりがある: 23%
- ある程度ゆとりがある: 17%
アルバイト・パート
- あまりゆとりがない: 34%
- 全くゆとりがない: 33%
- ゆとりがある: 19%
- ある程度ゆとりがある: 14%
学生
- あまりゆとりがない: 30%
- ゆとりがある: 28%
- 全くゆとりがない: 22%
- ある程度ゆとりがある: 21%
主婦・主夫
- あまりゆとりがない: 31%
- ゆとりがある: 25%
- 全くゆとりがない: 23%
- ある程度ゆとりがある: 21%
こうした就業調整が行われる一方で、人々の生活実感は決して楽なものではありません。「経済的なゆとりがあるか」という問いに対し、「全くゆとりがない」が31.6%、「あまりゆとりがない」が29.9%で、合わせて約6割に達しています。
属性別にみても、すべての属性でゆとりがない人が半数を超えており、「正社員・派遣社員・契約社員」や「アルバイト・パート」は6割に達しています。
とくに「アルバイト・パート」は時給制であるため、「年収の壁」を意識している人がより多いと言えるでしょう。
稼ぎたいという意欲がありながら、制度上の壁によって収入を抑えざるを得ないという状況によって、生活の苦しさに拍車をかけている可能性も否定できません。
4. 「178万円への引き上げ」に寄せられる期待と懸念
「2026年度より年収の壁が178万円に引き上げられることが決まったことについて感じること」自由回答の傾向(n数:1万5185件)
- 関心なし/中立: 47.4%
- 肯定的: 35.9%
- 要望: 11.8%
- 集計不可/不明: 2.8%
- 否定的: 2.1%
2026年度からの「178万円への引き上げ」について、自由回答の傾向によると、最も多いのは「関心なし/中立」で47.4%となっていますが、ポジティブな「肯定的」な意見も35.9%と多くなっています。
最近では時給が少しずつ上がっているのに、年収の壁の上限が上がらないために収入が上がる感覚もないということもあり、この動きを肯定的にとらえる人が多いことにも頷けます。
4.1 年収の壁についての感想
2026年度より年収の壁が178万円に引き上げられることが決まったことについて、どう感じますか?(自由回答)
- 【肯定的】30代女性
シフト調整をしていたので気にせず働けるのは嬉しい。 - 【関心なし・中立的】40代男性
特に関係はないので嬉しさなどはない。 - 【否定的】40代女性
年収が上がる分税金も高くなり今までと変わらないか又は悪くなる。稼ぎたくても稼げない。 - 【要望】20代女性
所得税だけじゃなく社会保険も考えてほしい。
肯定的な層からは「シフト調整をしていたので気にせず働けるのは嬉しい」という歓迎の声が上がっています。
一方で、否定的な意見の中には年収が増えた際の税負担が増加することに対して懸念があるほか、要望として「所得税だけでなく社会保険も考えてほしい」といった、より抜本的な改革を求める切実な声も混じっています。
これからの議論では、こうした様々な面から負担を減らす動きが出てくるといいですね。
5. 「手取り」はどう変わる?178万円への引き上げによる減税効果の試算
ここまで「年収の壁」についての声を見ていきましたが、どのような仕組みになっているのかおさらいしましょう。
「年収の壁」とは所得税の「基礎控除」などの合計額のことで、現在の103万円から178万円へと大幅に引き上げる仕組みです。
これによって、所得税が非課税となる所得の上限が引きあがるのみならず、それ以上に収入がある人にも減税の効果があります。
では、実際に私たちの税負担はどのくらい軽減されるのでしょうか。国民民主党の資料から、年収階級別の減税額の試算を見てみましょう。
年収階級別の減税額
- 年収 200万円: 減税額 2.7万円
- 年収 300万円: 減税額 2.8万円
- 年収 400万円: 減税額 2.8万円
- 年収 500万円: 減税額 4.7万円
- 年収 600万円: 減税額 5.6万円
- 年収 800万円: 減税額 3.8万円
- 年収 1000万円: 減税額 2.8万円
- 年収 1500万円: 減税額 4.6万円
- 年収 2000万円: 減税額 4.6万円
とくに年収500万〜600万円の中間層において大きな減税効果が見込まれています。
今回の改正で基礎控除などが大幅に引き上げられるため、これまで以上に課税対象となる所得が控除されることによって減税されます。
学生やパートのような「壁」を意識して働く時間を抑えていた人たちが制限なく働けるようになるだけでなく、フルタイムで働く人にとっても、物価高の中で生活の「ゆとり」を取り戻すための大きな後押しとなることが期待されています。
一方で、年収800万~1000万円の層では減税効果が相対的に薄くなっていることがわかります。今後の議論でどのようになっていくのか注目する必要がありますね。
6. まとめにかえて
「年収の壁」が動くことで、年末の働き控えを減らすことができ、働き手にとっても企業にとっても良い効果があると言えます。
しかし年収の壁のみならず、現役世代の社会保険の負担の重さなどもあり、手取りが増えた実感を得るには、いまだ課題も残されています。
「年収の壁」の動きをきっかけに、私たちの生活に真の「ゆとり」がもたらされるのか、今後の動向を冷静に見極めていく必要がありそうです。
参考資料
LIMO・U23編集部