5. 老後資金計画で見落とせない「介護費用」の影響
75歳を超える後期高齢期において、老後の資金計画を立てる際に見過ごすことができないのが「介護にかかる支出」です。医療費とは異なり、介護費用は発生するタイミングや期間、サービスの内容に個人差が大きいため、事前に正確な予測を立てることが難しい分野といえます。
将来の負担を現実的に考えるためには、平均的な費用感を把握することに加えて、介護が長期化した場合や家族に与える影響まで視野に入れておくことが不可欠です。
5.1 介護の初期費用と月々の費用
公益財団法人生命保険文化センターの調査(2024年度)によると、介護を始める際に必要となる住宅の改修費や介護用ベッドの購入費といった初期費用は、平均で約47万円となっています。
さらに、介護が開始された後は、月額で平均9万円程度の支出が継続的に発生するというデータも示されています。
注目すべきは、「介護費用が全くかからなかった」と回答した世帯は17.5%と、2割に満たない点です。これは、大多数の家庭で何らかの介護関連の負担が生じていることを意味しており、介護は一部の特別なケースではなく、多くの人にとって現実的な支出項目であるといえるでしょう。
介護保険制度によって自己負担は一定の範囲に抑えられていますが、食費や居住費、日用品といった制度の対象外となる費用が加わることで、実際の負担額は決して小さくありません。
5.2 平均的な介護期間と長期化のリスク
同調査によれば、介護が必要となる期間は平均で約4年7カ月とされています。一般的には5年前後が一つの目安となりますが、これはあくまで平均値に過ぎません。
症状や健康状態によっては、介護期間が10年以上にわたるケースも珍しくなく、特に重度の要介護状態が続く場合は長期的な対応が必要になる可能性があります。期間のばらつきが大きいという点は、資金計画を立てる上で考慮すべき重要なポイントです。
6. 認知症がもたらす「介護の長期化」というリスク
日本の高齢化が進むなかで、介護と密接に関連して語られることが多いのが「認知症」のリスクです。
認知症に伴う介護の難しさは、食事や入浴といった「身体的な介助」だけにとどまらない点にあります。徘徊への対応や金銭管理の補助など、日常生活の全般にわたる「見守り」が必要となるため、一般的な介護と比較して期間が長期化しやすい傾向が見られます。
その結果、月々の費用負担自体はそれほど高額でなくても、5年、10年と介護が続くことで、トータルの支出が大きく膨らんでしまうケースも少なくありません。
介護費用を見積もる際には、初期費用のような「短期的な支出」だけでなく、「見守りや各種サービスの利用料が長期にわたって継続する可能性」も想定しておくことが、老後資金の計画において現実的かつ安全なアプローチといえます。
6.1 金銭面だけではない「家族の負担」という視点
介護がもたらす影響は、金銭的な側面だけではありません。実際には、介護を担う家族の生活スタイルや仕事にも大きな変化をもたらします。
例えば、介護に専念するために仕事を辞めざるを得なくなる「介護離職」や、通院の付き添いや日々の世話にかかる時間的な負担などが挙げられます。こうした負担は数字として表れにくいものの、家計や生活の質に直接影響する重要な要素です。
将来への備えを考える際には、介護にかかる直接的な費用だけでなく、こうした目に見えにくいコストも含めて、広い視点で計画を立てておく必要があります。

