1月も終わりに近づき、日々の暮らしや家計のあり方を改めて見つめ直している方も多いのではないでしょうか。なかでも「老後の生活設計」は、物価の値上がりや制度の変化が続く今、どの世代にとっても避けては通れない関心事です。
2025年12月にJ-FLEC(金融経済教育推進機構)が公表した最新の調査では、60歳〜70歳代の幅広い層において「年金だけでは暮らしにゆとりがない」と感じている実態が明らかになりました。
また、二人以上世帯の約3割が「日常生活費を賄うことさえ難しい」と回答しています。
こうした不安の裏側には、5割以上の世帯が懸念している「止まらない物価上昇」に加え、「医療や介護の自己負担が増えていくこと」への切実な悩みがあります。
そこで本記事では、65歳から75歳以上にかけて変化していく「月々の生活費」や、平均7万円前後といわれる「食費」の内訳を詳しく見ていきます。
あわせて、気になる60歳代〜70歳代の「貯蓄額」や「厚生年金の平均受給額」についても徹底整理。最新の統計データから、今のシニア世代が直面している家計のリアルを紐解いていきましょう。
1. 【65歳~70歳~75歳~】老後の赤字は減っていくモノ?月々の生活費、いくら必要か
総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」を参考に、二人以上世帯のうち「65歳以上無職世帯」の毎月の家計収支を紹介します。
シニア期に入ると、毎月の生活費はどの程度かかるのでしょうか。支出の目安を把握できれば、老後資金をどこまで準備すべきかも、より現実的に描けるようになります。
1.1 65〜69歳世帯「ひと月の家計収支」生活費はいくら?
65〜69歳の毎月の実支出は、35万2686円です。内訳は以下のとおりでした。
- 消費支出(いわゆる生活費):31万1281円
- 非消費支出(税や社会保険料など):4万1405円
一方、実収入は月30万7741円にとどまり、毎月4万4945円の赤字が発生しています。
では、この赤字は65〜69歳の世帯だけに見られる現象なのでしょうか。次に、70歳以降の生活費と収支の状況を確認していきます。
1.2 70〜74歳世帯「ひと月の家計収支」生活費はいくら?
70〜74歳の毎月の実支出は、30万3839円です。内訳は以下のとおりでした。
- 消費支出(いわゆる生活費):26万9015円
- 非消費支出(税や社会保険料など):3万4824円
70〜74歳では、実収入が月27万5420円となっています。65〜69歳と比べると支出はやや抑えられていますが、それ以上に収入が減少しています。
その結果、月あたり2万8419円の赤字となりました。赤字幅は縮小しているものの、収支がプラスに転じているわけではありません。
1.3 75歳以上世帯「ひと月の家計収支」生活費はいくら?
75歳以上の毎月の実支出は、27万3398円です。内訳は以下のとおりでした。
- 消費支出(いわゆる生活費):24万2840円
- 非消費支出(税や社会保険料など):3万558円
75歳以上では、実収入は月25万2506円です。生活費はさらに小さくなるものの、依然として毎月2万892円の赤字が続いています。
2. 家族の食費:60歳代から70歳代でひと月いくらかかる?
家計管理の中でも、日常的に意識しやすく、工夫次第で節約しやすい支出のひとつが「食費」かもしれません。
ここで総務省統計局「家計調査 家計収支編(2024年)」をもとに、二人以上世帯のひと月の食費の平均を見てみましょう。
全体平均 7万5258円
- ~29歳 5万2413円
- 30~39歳 6万9433円
- 40~49歳 7万9900円
- 50~59歳 8万1051円
- 60~64歳 7万9831円
- 65~69歳 7万7405円
- 70~74歳 7万4322円
- 75~79歳 6万8274円
- 80~84歳 6万6257円
- 85歳~ 6万3347円
二人以上世帯の月間食費は、50歳代で約8万円と最も高くなります。60歳以降は年齢とともに減少し、85歳以上では6万3347円まで下がります。
食費は家族構成や生活段階の影響を受けやすく、特に所得が低い世帯では、支出全体に占める食費の割合(エンゲル係数)が高くなりやすい傾向があります。
物価高が続く中、食料品の価格動向を意識しながら、無理のない食生活と家計管理を心がけたいところです。
3. 60歳~79歳いまどきシニアの「厚生年金平均月額」1歳刻みでチェック
データを確認すると、60歳代・70歳代ともに、標準的な二人以上世帯では毎月の家計収支が赤字になっていることが分かりました。
この不足分を補う手段として重要になるのが、これまでに蓄えてきた貯蓄と、老後の主な収入源である年金です。
ここからは、60歳代・70歳代における平均的な貯蓄額と、厚生年金の受給水準を見ていきます。
3.1 60歳代の場合
J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」によると、60歳代の二人以上世帯の平均貯蓄額は2683万円でした。一方で中央値は1400万円となっています。
※貯蓄額には、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。
貯蓄額の分布についても見ておきましょう。
- 金融資産非保有:12.8%
- 100万円未満:4.7%
- 100~200万円未満:3.9%
- 200~300万円未満:3.0%
- 300~400万円未満:2.8%
- 400~500万円未満:1.8%
- 500~700万円未満:6.2%
- 700~1000万円未満:6.3%
- 1000~1500万円未満:8.9%
- 1500~2000万円未満:8.0%
- 2000~3000万円未満:12.4%
- 3000万円以上:27.2%
- 無回答:2.0%
金融資産非保有の世帯が1割を超えていることがわかります。
また、60歳代の厚生年金の平均年金月額は以下のとおりです。
- 60歳:9万9664円
- 61歳:10万4455円
- 62歳:10万9323円
- 63歳:6万8758円
- 64歳:8万3901円
- 65歳:14万9862円
- 66歳:15万2378円
- 67歳:15万2356円
- 68歳:15万2709円
- 69歳:15万1284円
60〜64歳では、繰上げ受給中の人や特別支給の老齢厚生年金を受給している人が含まれるため、受給額にはばらつきがあります。
一方、原則的な受給開始年齢である65歳以降では、平均的な年金月額は14万円台~15万円台で推移しています。
3.2 70歳代の場合
では、70歳代の貯蓄額はどうでしょう。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」によれば、70歳代の二人以上世帯の平均貯蓄額は2416万円、中央値は1178万円です。
※貯蓄額には、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。
60歳代と比較して平均値はやや減少していますが、中央値は増加しています。貯蓄額の分布は以下のとおりでした。
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
貯蓄3000万円以上を保有する世帯が約25.2%ある一方で、金融資産をまったく持たない世帯も10.9%存在します。
年齢を重ねれば自然と貯蓄が増えるわけではない点は、あらかじめ理解しておく必要があるでしょう。
また、70歳代の厚生年金の平均年金月額は以下のとおりです。
- 70歳:15万455円
- 71歳:14万8371円
- 72歳:14万6858円
- 73歳:14万5583円
- 74歳:14万7774円
- 75歳:15万1410円
- 76歳:15万1241円
- 77歳:15万962円
- 78歳:15万862円
- 79歳:15万3115円
いずれの年齢層でも、厚生年金の平均受給額は14万円を超えています。60歳代と比較しても、年齢による大きな差は見られません。
夫婦ともに厚生年金を受給できる世帯であれば、家計が黒字になる可能性もありますが、ここで示している数値はあくまで平均値である点には注意が必要です。
4. 老後資金の計画は「一度立てて終わり」ではない
老後資金の計画は、一度立てたらそのまま固定してよいものではありません。なぜなら、老後を取り巻く前提条件は、時間の経過とともに少しずつ変わっていくからです。
たとえば、年金制度や医療・介護制度は数年ごとに見直しが行われています。実際、自己負担割合や保険料、給付の仕組みは、これまでも改正が重ねられてきました。将来も同じ条件が続くと考えるのは現実的とは言えません。
また、物価の動きも無視できない要素です。総務省が発表している消費者物価指数(CPI)によれば、近年は食料品や光熱費を中心に上昇が続いており、同じ生活水準を維持するために必要なお金は、過去の想定より増える可能性があります。
4.1 消費者物価指数CPI:2025年(令和7年)12月分
- 総合指数は2020年を100として113.0…前年同月比は2.1%の上昇
- 生鮮食品を除く総合指数は112.2…前年同月比は2.4%の上昇
- 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は111.5…前年同月比は2.9%の上昇
数字上は問題なく見えていた家計が、物価上昇によって徐々に圧迫されるケースも考えられます。
さらに、家族構成や健康状態の変化も、老後の支出に影響します。配偶者の状況や住まいの選択、医療・介護の必要性などは、事前に正確に予測することが難しいものです。
こうした不確実性を踏まえると、老後資金は「完璧な計画を一度作る」ことよりも、「状況に応じて見直しながら調整していく」姿勢が重要になります。
次の段落で紹介するシミュレーションツールも、そのための一つの手段として位置づけるとよいでしょう。
5. 老後資金を見える化する:ライフプランシミュレーターの活用
金融庁が公開している「ライフプランシミュレーター」を使うことで、簡単に自分のライフプランをシミュレーションできます。
ライフプランシミュレーターは、以下の手順で進めていきます。
- 自身の情報を入力する
- 配偶者の情報を入力する
- 子どもの情報を入力する
- 暮らしの情報を入力する
- 詳しい条件を入力する
- シミュレーション結果を見る
シミュレーション結果を見れば、「貯金がいつ頃ピークを迎え、いつ厳しくなるのか」といった将来の推移がグラフで一目でわかります。漠然とした不安を「見える化」できるため、具体的な対策を練るためのヒントとなるでしょう。
ただし、結果は現時点での条件をもとに算出されたものにすぎません。家族構成や働き方、経済環境や制度は、今後変わる可能性があります。
シミュレーションは確定的な計画ではなく、将来を考えるための「たたき台」として活用し、状況に応じて見直していく姿勢が大切です。
6. 完璧な計画より「定期的な見直し」を。「人生100年時代」を乗り切るために
統計データから見えてきたのは、シニア世帯の多くが毎月数万円の赤字を貯蓄で補っている現実です。月7万円前後の食費も、昨今の物価高でさらなる負担増が懸念されます。
特に注意したいのは、貯蓄の「平均値」と「実態」の差です。貯蓄ゼロ世帯が1割以上いる一方で、高額保有層が平均値を押し上げているため、平均額だけで安心することはできません。
老後資金の計画に「完成」はありません。
制度改正やインフレ、健康状態など、前提条件は常に変わります。シミュレーターで現状を可視化しつつ、その時々の状況に合わせて柔軟に家計を軌道修正していく姿勢が、「人生100年時代」を乗り切るカギとなるでしょう。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 金融庁「ライフプランシミュレーター」
- 総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)12月分(2026年1月23日公表)」
- 総務省統計局「家計調査 家計収支編(2024年)第3-2表」
マネー編集部貯蓄班