4. 「年収の壁」対策との比較

ガソリン暫定税率の廃止が決定し、次の関心事としては「103万円の壁の引き上げ」が挙げられます。今年度からは最大で年収160万円までなら所得税がかからないようになりますが、政策を提示した国民民主党は、さらなる引き上げを求めている状況です。

「どちらかを優先して進めなければいけないのか」と考える人もいるかもしれません。しかし、両政策は互いに補完し合う可能性を秘めています。実際、政府は給付付き税額控除の制度設計、年収の壁の引き上げの両方とも検討している最中です。

「103万円の壁対策」は、基礎控除の引き上げを主張するものです。働く時間を調整している人々がより多くの時間働けるようにするための政策ですが、ほとんどの納税者に適用される「基礎控除」を拡大することで、さまざまな人の手取りが増えるようになっています。一方で、減税額だけ見れば高所得者のほうが差し引かれる金額が大きいことから、高所得者ほど有利な政策ともいわれます。

給付付き税額控除は、給付と減税を組み合わせるため、基礎控除の拡大と同様にさまざまな層に恩恵をもたらせるのが特徴です。減税が及ばない層にも支援が届くため、低所得者ほど有利な政策となっています。

つまり、それぞれの観点からアプローチすれば、多くの層の手取り増を実現でき、ある程度の公平性も担保できるのです。

11月26日の党首討論において、高市首相は、年収の壁の引き上げについては給与に対して適用される「給与所得控除」の引き上げも含めて考える旨を示しました。年収の壁の引き上げと、給付付き税額控除のどちらも実現すれば、手取りが増えてより豊かな暮らしが期待できるでしょう。

5. まとめ

給付付き税額控除は、給付と減税それぞれのメリットを享受できるものですが、制度設計には時間がかかります。また、所得額の把握については、マイナンバーの有効活用などをうまく進められるかが鍵になると考えられます。

まずは、一時的な個人消費の下支えとして発表された経済対策の実施を待ちつつ、給付付き税額控除の制度設計に関する新たな動きがないか、私たちも常に高い関心を持っておく必要があるでしょう。

参考資料

石上 ユウキ