がんと診断されたとき、多くの人が抱える不安のひとつが治療費の問題です。「抗がん剤治療にはいくらかかるの?」「高額療養費制度があっても、実際の負担は重いのでは?」そんな疑問を持つ方も多いでしょう。

現代のがん治療は通院による薬物療法が主流となり、治療期間も長期化する傾向にあります。公的制度だけでは賄いきれない経済的リスクに対し、がん保険での備えがどの程度必要なのか、具体的なデータをもとに詳しく解説していきます。

1. 抗がん剤治療にかかる医療費の実態

抗がん剤治療は、公的医療保険が適用されるものがほとんどです。しかし使用する薬剤によっては薬価が数十万円になることもあるため、実際の自己負担がいくらになるか気になるところです。実際の医療費について見ていきましょう。

1.1 通院治療における自己負担額の現状

抗がん剤治療の大部分は公的医療保険制度の適用対象となりますが、薬剤費用そのものが高額なため、3割負担後でも一定の自己負担が発生します。毎月抗がん剤治療を受けるとなると、家計への影響も無視できません。

厚生労働省の令和4年度医療給付実態調査によると、がん外来治療1件あたりの自己負担額は以下の通りです。

肺がんでは医療費10万7293円に対し自己負担額3万2188円、肝がんでは医療費10万9702円に対し自己負担額3万2910円となっています。

胃がんや大腸がんなどの消化器系がんでは1万円台の自己負担となるケースもありますが、進行度や使用する薬剤によって大きく変動するのが実情です。

1.2 入院を伴う治療費の負担

がんの初期治療では手術が必要となることが多く、その際の入院費用も考慮する必要があります。同調査によると、がん入院1件あたりの3割負担後の自己負担額は、胃がんで20万6662円、肺がんで22万179円です。

血液がんでは特に高額で、悪性リンパ腫では36万224円、白血病では54万4770円に達します。

2. 高額療養費制度による負担軽減効果

日本の公的医療保険制度では、高額な医療費負担を軽減するために高額療養費制度が設けられています。高額療養費制度を利用することで実際の自己負担額はさらに軽減できる場合があります。

2.1 所得に応じた自己負担上限額

高額療養費制度により、月額の医療費負担には上限が設けられています。年収500万円程度の標準的な収入世帯では、月額約8~9万円が上限となります。

年収1160万円を超える高所得世帯では25万円超の負担となる一方、年収370万円以下の世帯では上限5万7600円です。

また、高額な医療費負担が年4回以上発生した場合、4回目以降は「多数回該当」として更なる軽減措置が適用されます。年収500万円世帯の場合、4回目以降の月額負担は4万4400円まで軽減されます。

2.2 抗がん剤治療を1年間継続した場合の負担例

年収500万円の世帯が1年間継続して抗がん剤治療を受けた場合、高額療養費制度を最大限活用しても年間約67万円の医療費負担が発生します。

これは通院交通費や差額ベッド代などの制度対象外費用を含まない純粋な治療費のみの計算です。