年齢に応じて資産配分を変えるTDF型の運用

想定する退職年齢67歳で年収の7倍の資産を作り上げるという目標に対して、30歳の段階で年収の1倍が計画通りといえるためには、年収の16%を資産形成にまわすこと、それを資産運用し続けること、の2つが必要です。『老後のために「年収の16%」を資産形成に回そう』では、そのうち年収の16%資産形成にまわすことをお伝えしました。今回は資産運用を継続する意味を考えてみます。

“フィデリティの「退職準備の指標」を計算するときに運用収益を何%に設定していますか”とよく聞かれます。しかし、その答えをすることにはあまり意味がないと考えています。

この指標の算出では、運用収益率の前提において2つの大きな特徴があります。1つ目は、資産配分を一般的なターゲット・デート・ファンド(TDF)で使われる「年齢に応じた資産配分比率」にあわせて変更していることです。

そのため、運用はこの指標の標準パターンである25歳から67歳まで、そして93歳までの全期間で、年齢に応じて配分比率が変更されていきます(実際にはある年齢までは一定で、そこから徐々に変化させ、また最後は一定になるといった配分比率の変更となります)。そのため、運用収益率は一律で何%と表現しにくいものなのです。

信頼度を想定した確率論

もちろん、期間の平均値を示すことはできますが、それはそれぞれの年齢における運用の収益率とは違うものになり、誤解を招きかねません。その代わりにこの指標作成では、実績データによるシミュレーション結果を使って、目標の「年収倍率」 7倍や、「持続可能な引き出し率」3.9%を達成できる「信頼度」を重視しています。これが2つ目の特徴です。

具体的には、1990年から2017年までの株式、債券、現金の3つの運用収益率とリスク指標であるそれぞれの標準偏差、さらに3つの資産の収益率間の相関係数を使って、大量にシミュレーションを行いました。

その結果から、90%の可能性で93歳まで資産が枯渇しなかった引き出し額の水準を、退職時点の資産額に対する比率で示した「持続可能な引出し率」が3.9%と算出されました。これをもとに「年収倍率」7倍が求められ、さらにそれを80%の確率で達成できる「資産形成比率」は16%だと算出しているのです。これら達成確率を“信頼度”と呼んでいます。

一般的に資産運用では、リターンが高くなればリスクも高くなります。目標とする7倍の「年収倍率」を目指す場合、リターンを高く設定すれば、少ない資産形成額で済ませることができます。しかしその場合には運用成果のばらつき、すなわちリスクも高くなり、達成できる可能性が小さくならざるを得ません。そのため信頼度80%を必須条件として、過去の実績データを前提にすれば、おのずと資産形成比率が見えてくるということです。

「継続は力なり」

運用収益率をどうすれば良いかを悩むよりは、年齢に応じて資産構成を変更していくTDF型の運用方法を前提に、年収の16%ずつの資金を継続的に資産運用に回すことの方が大切になります。

実際、2018年4月に実施したサラリーマン1万人アンケートで5歳刻みの退職準備額の年収倍率を分析してみると、20-30代の人は2-3割が途中経過の目標である1倍を達成していますが、60歳前後で6倍の目標を達成できている人は1割強に低下しています。子育て、住宅ローンなどの支出が多くなる時期に退職の準備に資金をつぎ込めない可能性もあるのでしょう。それでもできる限り自分の将来に対する投資だと考えて継続してほしいところです。継続することが大切です。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史