これは、国の財政難を受けて財務省(以前は大蔵省)が値上げに踏み切ったことが要因と言われていますが、単純な上昇率だけを見れば、私立大学を上回っています。国立大学に入れば経済的負担が小さいというのは、現在では、私立大学との比較相対的な話のようです。

国立大学でもう一つ注目したいのが、近年の授業料が据え置きになっていることです。

2005年度から国立大学法人化制度が始まり、各国立大学が国の定める標準額を基準にして自由に決定することができるようになりました。現在の53万5千円は国が定めた標準額なのですが、実際にはほとんどの国立大学がこの標準額を授業料にしているようです。

国立大学の授業料据え置きで経営が疲弊する私立大学

また、国立大学の授業料据え置きは、私立大学にも少なからず影響を与えていると見られます。2005年度に始まった国立大学法人化まで、国立大学の授業料値上げは“国私間の格差縮小”となって、私立大学側に追い風だったと考えられます。

しかし、その後は少子化による受験者数の減少が顕著となり、私立大学の重要な財源の1つである“入試受験料”が大きく減っています。そのため、“本当は授業料をもっと値上げしたいけど、あまり値上げできない”という私立大学の苦悩を見て取ることができます。

国立大学の授業料据え置きが、私立大学の経営を圧迫している一因となっており、私立大学は国立大学の授業料値上げを待ち望んでいると見るのは、うがった見方でしょうか?

実際、財務省と文科省の判断一つで、国立大学の授業料が再び値上げになる可能性は十分あるでしょう。しかし、その時に、私立大学が大幅な授業料値上げに踏み切れば、最終的には家計への負担増に結びつくのは明白です。その場合、大学進学者の減少が加速し、大学の淘汰へつながる可能性は高いと言えそうです。

授業料を上げるのも地獄、下げる(上げられない)も地獄なのかもしれません。

葛西 裕一