2. 【損しないお金の手続き2】iDeCoの受け取り方

退職金とあわせて、iDeCoの受け取り方にも注意が必要です。iDeCoは自分で掛金を拠出して運用する年金制度です。税制優遇に強みのあるiDeCoですが、受け取るタイミングによっては必要以上の税金がかかる場合があります。

iDeCoは原則60歳から受け取りが可能です。受け取り方は一時金形式・年金形式があり、退職金と同じように退職所得控除や公的年金等控除の対象となります。しかし、iDeCoに関しては退職金形式での受け取りに注意しなければなりません。

■「iDeCoの一時金」を受け取ったあとに「退職金」を受けとる場合

これまでは、退職所得控除を一度使用した際、5年間期間を空ければ再度控除を適用できるようになっていました。しかし、2025年度の税制改正により、2026年1月からは空けなければいけない期間が10年になりました。つまり、60歳でiDeCoを受け取って退職所得控除が適用された場合、退職金を受け取って再度退職所得控除を適用するには、70歳以降に退職金を受け取らなければなりません。

■「退職金」を受け取ったあとに「iDeCo」を受けとる場合

iDeCoには「19年ルール」と呼ばれる仕組みがあります。会社から退職金を受け取ってから19年以内にiDeCoを一時金で受け取ると、両方がひとつの退職金として扱われ、退職所得控除を二重に使うことができません。

そのため、会社からの退職金を先に受け取った場合には、iDeCoの受け取りまで少なくとも20年空ける必要があります。たとえば60歳で退職金を受け取った場合、iDeCoを新たな退職金として控除の対象にするには、80歳以降まで受け取りを先送りしなければなりません。

ただし、iDeCoは最長75歳までしか受け取りを引き延ばせないため、実際には60歳退職では19年ルールを回避できません。一方、55歳で会社の退職金を受け取り、75歳にiDeCoを受け取るケースであれば、20年の間隔を確保でき、退職所得控除を別枠で利用することが可能です。

自身のリタイアプランとあわせて、どのような方法を取るべきか検討しておきましょう。

3. 【損しないお金の手続き3】健康保険の加入の仕方

在職中は会社の健康保険に加入しますが、退職するとその翌日から健康保険が適用されなくなります。健康保険に未加入の場合、医療費が全額自己負担となり、支出が増えるだけでなく満足いく医療も受けられません。

日本は「国民皆保険」制度のもと、国民誰もが健康保険に加入する必要があります。健康保険は途切れる期間なく加入しなければなりません。

3.1 3つの選択肢から比較を

健康保険の選択肢としては、以下の3つがあります。

  1. 会社の健康保険を任意継続する
  2. 国民健康保険に加入する
  3. 家族の扶養に入る

保険料の自己負担をなくすには、家族の扶養に入るとよいでしょう。配偶者だけでなく、子どもや孫の扶養に入ることも選択肢になり得ます。現役世代である子どもや孫の扶養に入れば、自身は保険料負担がなくなり、扶養する人は「扶養控除」により節税が可能です。

扶養に入らないのであれば、国民健康保険か任意継続のどちらかを選択します。国民健康保険は、前年の所得をもとに保険料を算出するため、退職直後や退職金を受け取った翌年は、保険料が高くなりがちです。一方、健康保険の任意継続は、2年間会社の健康保険を継続できますが、保険料が在職中の2倍になります。

国民健康保険料については、加入前に一度市町村の窓口で、おおよその保険料を試算してもらうとよいです。一方、任意継続の場合は、単純にこれまでの保険料の2倍を納めることになるため、試算してもらった国民健康保険料と比較して、どちらが負担が大きいか確かめてみましょう。

4. まとめ

定年退職時のお金の手続きは複雑です。手続きの仕方によっては、所得が必要以上に増えてしまったり、多くの健康保険料を支払わなければならなかったりします。

しかし、いくつかの方法や比較の仕方を理解しておけば、よりよい選択肢を取れます。損しないお金の手続きの仕方で、豊かなセカンドライフをスタートさせましょう。

※2025年9月8日 読者からのご指摘を受け一部修正しております。

参考資料

石上 ユウキ