3. 繰下げ受給にはデメリットもある
繰下げ受給によって年金額を大きく増やせる可能性もありますが、実際には注意すべき点も少なくありません。
単純に「年金額が増えるからお得」と考えるのではなく、生活状況や健康状態を踏まえて慎重に判断する必要があります。
特に、繰下げ受給には「加給年金額や振替加算の受給条件に影響する」「増額された年金により税金や社会保険料の負担が増える」などのデメリットも存在します。
3.1 加給年金額や振替加算の受給条件に影響する
繰下げ受給を選ぶ際に見落としがちなのが、加給年金額や振替加算といった「家族に関わる加算」の取り扱いです。
加給年金額とは、厚生年金を受け取る本人に生計を同じくする配偶者や子どもがいる場合に上乗せされる年金です。
また、振替加算とは、配偶者が65歳になったときに一定の条件を満たせば加算される仕組みです。
これらの加算は、繰下げを選択するとその間は支給されません。
つまり、65歳から受け取れるはずだった加算を「受け取らないまま」繰下げ期間を過ごすことになり、その分の損失が生じる可能性があります。
特に配偶者の生活費を年金に頼っている家庭では、この加算の有無が家計に大きな影響を与えます。繰下げによる増額効果が加給年金額の損失を上回るのかどうか、シミュレーションしておくことが重要です。
3.2 税金や社会保険料の負担が増える
繰下げ受給によって年金額が増えると、その分だけ生活の安心感は高まります。しかし一方で、税金や社会保険料の負担が増える可能性がある点には注意が必要です。
公的年金は「雑所得」として課税対象となります。年金額が増えれば所得控除を差し引いた後の課税所得も増えるため、所得税や住民税が高くなるケースがあります。
また、国民健康保険料や介護保険料は前年の所得に基づいて計算されるため、増額された年金によって保険料が引き上げられることもあります。
さらに、所得が増えると医療費の自己負担割合が「1割」から「2割」に上がる場合があり、年金額が増えることでこの判定基準に影響する可能性もあります。
繰下げ受給は「単純に得する制度」ではなく、増額された年金と引き換えに発生する税・保険料の負担も考慮する必要があります。