5. 【年金受給開始のタイミングを選べる】「繰下げ受給・繰上げ受給」とは?
リタイア後の生活を支える老齢年金の受給開始は、原則として65歳からです。
しかし、「繰下げ受給」や「繰上げ受給」の制度を活用することで、受給開始年齢を60歳から75歳の間で、1カ月単位で自由に調整することが可能です。
5.1 年金額が増える「繰下げ受給」とは
繰下げ受給とは、老齢年金の受給開始を遅らせることで、遅らせた期間に応じて年金の受給額が増加する制度です。
繰下げ受給の増額率=65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数×0.7%(最大84%)
- (例1)1年間繰り下げた場合・・・0.7%×12カ月=8.4%増
- (例2)70歳まで繰り下げた場合・・・0.7%×60カ月=42%増
- (例3)75歳まで繰り下げた場合…0.7%×120カ月=84%増
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、それぞれ単独で繰下げ受給が可能です。
また、繰下げによる増額率は一度増えた後も生涯にわたって継続します。
繰下げ受給の最大のメリットは、受給開始を遅らせることで毎月の年金額が増えることです。
ただし、繰下げ期間中の生活資金の確保や自身の健康状態を踏まえ、慎重に判断する必要があります。
さらに、繰下げ受給は年金生活者支援給付金や医療・介護保険の自己負担額、税金などにも影響を与える可能性があるため、その点も注意しましょう。
※昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなりますので、増額率は最大で42%となります。
5.2 年金を早く受け取れる「繰上げ受給」とは
繰上げ受給とは、年金の受給開始を本来の65歳よりも早める制度で、その分だけ受給額が受給開始を早めた期間に応じて減額される仕組みです。
減額率=繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数×0.4%(最大24%)
- (例1)64歳から受け取った場合・・・0.4%×12ヵ月=4.8%減
- (例2)60歳から受け取った場合・・・0.4%×60ヵ月=24.0%減
繰上げ受給の利点は、年金を早期に受け取れることです。
たとえば、60歳で定年退職し、65歳までの生活費に不安がある場合には、有力な選択肢の一つとして検討してもよいでしょう。
ただし、一度繰上げ請求をすると取消しができず、減額された年金額は65歳以降も生涯にわたり変わらない点、さらに国民年金の任意加入や保険料の追納ができなくなる点などのデメリットも十分に理解しておくことが重要です。
※ 老齢基礎年金の繰上げには「全部繰上げ」と「一部繰上げ」があり、特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢の特例に該当しない場合は、全部繰上げとなります。
※ 昭和37年4月1日以前生まれの方の減額率は、0.5%(最大30%)となります。
※ 年齢の計算は「年齢計算に関する法律」に基づいて行われ、65歳に達した日は、65歳の誕生日の前日になります。
(例)4月1日生まれの方が65歳に達した日は、誕生日の前日の3月31日となります。
※ 特別支給の老齢厚生年金を受給できる方の老齢厚生年金の減額率は、特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢に達する日の前月までの月数で計算します。
6. 老後に向けて早めに対策を
今回は、最初に65歳以上の無職おひとりさま世帯にスポットを当てて、1カ月の家計収支をご紹介しました。
その後、国民年金と厚生年金の平均的な受給額について、男女別やパターン別に分けて確認していきましたが、年金だけに頼った老後生活は難しいと感じた方も多いのではないでしょうか。
老齢年金の受給開始は原則65歳からとなりますが、年金の繰り下げ受給をすることで、1回あたりの受給金額を増やせるとお伝えしました。しかし、65歳以降に年金を受け取れない空白の期間が生まれてしまうため、この間の収入や取り崩し可能な資産を準備しておく必要があります。
年金の繰上げ・繰下げも含め、老後生活が始まった際に困らないように、ライフプラン・マネープランをしっかりと立てて、早めから対策をとっておくことが重要です。
参考資料
- J-FREC 金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](2024年)」
- 厚生労働省「令和7年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
- 日本年金機構「年金の繰上げ受給」
荻野 樹