消費増税に伴う需要変動を平準化するには、消費税を内税にして転嫁を事実上自由にさせるべきだと久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。
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2019年10月1日に予定されている8%から10%への消費税率引上げについて、政府は「骨太の方針」で「引上げによる駆け込み需要・反動減といった経済の振れをコントロールし、需要変動の平準化、ひいては景気変動の安定化に万全を期す」としています。
前回、5%から8%に引き上げられた時は、人々の予想を上回る駆け込み需要と反動減が発生し、あやうく景気が後退しかねない、といった状況でしたから、今回は前回の轍を踏まないようにしよう、ということなのでしょう。
消費税を内税にして総額表示にすれば転嫁が事実上自由になる
景気の平準化という目的のためには、公共投資を後ろ倒しにする(2019年度の公共投資予算について、前半は少なく、後半は多く執行する)といったことは必要でしょうが、より本質的に駆け込み需要を減らす工夫も必要です。そこで筆者が期待するのが「消費税を内税として総額表示にすることで、事実上消費税の転嫁を自由に行えるようにする」ことです。
意外なことですが、消費税は価格に転嫁しなければならないと決められているのです。大規模小売事業者などが納入業者からの仕入れに際して、あるいは大手メーカーが下請け部品メーカーからの仕入れに際して、消費税率引き上げ分の価格への転嫁を認めない可能性があるため、それを阻止する目的だと言われています。
そんな法律を作っても、そもそも力関係が違うのであれば、「消費税率引き上げの際には転嫁しても良いが、原油価格上昇等によるコスト上昇分は転嫁しないように」といった「下請けいじめ」は容易でしょう。消費税だけ目くじらを立てる必要はない、と筆者は考えています。
一歩譲って、下請けとの関係においては消費税率引き上げを転嫁させる法律を残したとしても、小売店が消費者に物やサービスを売る際には、消費税の転嫁を義務化する必要はありません。原油価格の上昇によるコストアップを消費者に転嫁するか否かは売り手の自由ですから、競争相手の動向など諸般の情勢を考慮して転嫁するか否かを決めるはずです。それと同じで良いでしょう。
実務的には、消費税法を「転嫁してもしなくても良いが、今後は売値の108分の8ではなく、売値の110分の10を消費税として納税すること」と定めれば良いだけです。
本体価格100円のものを108円から110円に値上げするならば、転嫁が普通でしょうが、102円のものを110円から112円に値上げするのは避けたいでしょうし、98円のものを106円から108円に値上げするよりも110円に値上げした方が小銭が不要で便利かもしれません。
転嫁する場合でも、タイミングをずらすことが可能になります。ライバルより3カ月遅れて転嫁することで、3カ月間はライバルから客が奪えるかもしれません。この場合は、バーゲンセールを3カ月実施したのと同じことですね。
あるいは、人件費の高騰を価格に転嫁したいと考えている売り手は、消費税が上がる前に「人件費高騰分プラス2%」だけ価格を引き上げておき、消費税率が上がった日には値上げをせず、「当店は消費税を転嫁しません」と宣伝することも可能でしょう。事実上の「便乗値上げ」ですね(笑)。
このように、店によって転嫁のタイミングがバラバラになってくれれば、人々が一斉に買い急ぎをして反動減を招く、といったことは起きにくくなるはずです。