筆者の案は、理屈を考えると優れていると思うのですが、懸念材料もないわけではありません。転嫁を義務化しないと、飲食店などの中小企業が競争の激しさから転嫁できない可能性があることです。
転嫁が義務であれば、「ライバルたちも転嫁するに違いないから、自分が転嫁しても客は逃げないだろう」と考えて容易に転嫁することができますが、転嫁が義務でなくなった途端、「ライバルが転嫁しないかもしれないから、しばらく転嫁せずに様子を見よう」という中小企業が多数出てくるかもしれません。そうなると、「やはりライバルは転嫁しなかったから、自分も転嫁はできない」と皆が考えてしまいかねません。
そうした可能性がある以上、それを恐れた中小企業(および彼等の票を期待する政治家等々)から「消費税率引き上げ反対」の大合唱が起きるかもしれません。そうなると、マスコミなども反対派の声を大きく報道するかもしれません。賛成派は、特に声をあげないでしょうから、マスコミ報道に接した人々の中には、反対派の声が世の中の声だ、という誤解をする人が大勢いるかもしれません。
つまり、政治的には転嫁を義務化しておいた方が消費税率の引き上げが行ない易いのです。それを知っている財務省は、「転嫁しない自由」を認めたがらないかもしれませんね。ここはぜひ、閣議決定された「骨太の方針」の趣旨に沿って転嫁しない自由を認めてほしいと思いますが。
消費税前の駆け込み消費が得か否かは、慎重に検討すべき
ちなみに、今でも事実上は転嫁しないことは可能です。消費税率が引き上げられる日に「全品2%値下げ」をすれば良いからです。メーカーが定価を下げることもできますし、安売り店が安売り幅を2%だけ拡大することもできます。そして、実際にそうしたことは行われているのかもしれません。
駆け込み需要で客が殺到している時には定価で売り、反動減で客足が遠のいた時には大幅に値下げする店があっても不思議はありません。自動車販売店や家電量販店などでは、そうしたことが行われている可能性は高いでしょう。
意図しなくても、そうなっている場合もありそうです。たとえば住宅建設の場合、駆け込み需要が殺到すると、大工等の奪い合いで人件費が高騰し、反動減になると大工等の人件費が下落するでしょうから、価格自体が自然体で2%以上下落するかもしれません。
余談ですが、消費者としては、そうした可能性も考えて、「とにかく駆け込みで増税前に購入しよう」と焦らないことが重要かもしれませんね。
本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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塚崎 公義