2.1 在職老齢年金の調整額はさらなる引き上げが検討されている

在職老齢年金の支給停止調整額については、現在国の社会保障審議会年金部会にて見直しが進められています。部会では「制度廃止案」「調整額71万円案」「調整額62万円案」の3つが検討されています。

在職老齢年金制度3つの見直し案

在職老齢年金制度3つの見直し案

出所:厚生労働省「在職老齢年金制度について」

現行の制度による年金の支給停止額は、約4500億円です。支給停止額が減額されれば、その分働くシニアへの年金支給額が増えることになります。

一方、支給停止調整額を引き上げれば、たとえどの案を採用しても支給停止額が減るため、現役世代が受け取る厚生年金の給付水準は低下してしまいます。すでに月に50万円近くの収入があるシニア世代に向けて、さらなる手厚い制度改正が必要なのかという点は、部会でも疑問が提示されています。

「65歳以降に関しては、在老の就業抑制効果がゼロとはいいませんが、そこまで大きくないと考えられます。(中略)それゆえに、高齢者の就業抑制の解消という観点から、将来世代の給付水準を若干下げてまで制度を見直すことについて、私は積極的な賛成はできません。」

引用:厚生労働省「第21回社会保障審議会年金部会(議事録)」

また、在職老齢年金制度の対象となっている人は約6人に1人です。この数字を多いと捉えるか決して多くないと捉えるかで、支給停止調整額を引き上げるか現状維持するかの判断も変わってくるでしょう。

65歳以降の在職している年金受給権者数

65歳以降の在職している年金受給権者数

出所:厚生労働省「在職老齢年金制度について」

1月29日の参議院本会議では、石破茂内閣総理大臣が「年金制度改革のための法改正案取りまとめに向けて努めたい」と答弁しました。もし引き上げとなるのであれば、早くても次年度には制度改正となる可能性があるでしょう。

次章では、在職老齢年金と関連のある「在職定時改定」の制度を解説します。