2. 年金が目減りしている理由

年金が目減りしている理由は「実質賃金変動率の減少」と「マクロ経済スライドによる調整」です。68歳到達年度前の受給権者の年金額は、直近の物価変動率と賃金変動率を比較し、マクロ経済スライドで調整したうえで改定率を決定しています。

物価変動率と賃金変動率を比べてみると、物価変動率は前年度の消費者物価指数(CPI)と同じ数字の2.7%です。

一方、賃金変動率は物価変動率と直近3年度分の実質賃金変動率、さらに可処分所得割合変化率(0.0%)を合わせた「名目賃金変動率」で見比べます。直近3年度の実質賃金変動率は▲0.4%、物価変動率が2.7%ですから、名目賃金変動率は2.3%で、物価変動率を下回っているのです。この時点で賃金<物価となっているため、年金額は物価に比べて目減りすることが確定してしまいます。

なお、68歳到達年度以後の受給権者は物価変動率を用いて年金改定を行います。物価がプラス、実質賃金がマイナスとなっている場合は、賃金変動率を採用するため、68歳以降の人の年金額も実質目減りとなるのです。

そして、目減りに拍車をかけているのが「マクロ経済スライド」です。マクロ経済スライドは2004年に制定された年金の改定率を調整する仕組みのことで、現役世代の保険料負担が過度になるのを避ける意味合いでつくられました。現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことで、改定率を調整します。

マクロ経済スライドの発動タイミングは、以下のケースです。

マクロ経済スライド発動のタイミング

マクロ経済スライド発動のタイミング

出所:日本年金機構「マクロ経済スライド」

  • 名目賃金・物価の上昇率が大きな場合:マクロ経済スライド発動により改定率を抑える
  • 名目賃金・物価の上昇率が小さな場合:マクロ経済スライド発動により改定率がマイナスとなるため、額の改定は行われない

2025年度改定は物価変動率、賃金変動率ともにプラスとなっているため、マクロ経済スライドが発動し、改定率が0.4%引き下げられています。最終的な改定率は1.9%で、金額こそ増えますが、実質的な価値は目減りしているといえるのです。