円安は、景気は押し上げないが、株価は押し上げる

円安と株高が同時に起きる3つのケース

円安が株価を押し上げる理由を、久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

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「円安は景気にプラスだから、株価にもプラスだ」と考えている人は多いでしょう。しかし最近は、円安が景気にプラスに作用しないようです。アベノミクスで円安になってから5年以上経つのに、輸出数量は余り増えず、輸入数量も減っていないからです。

それなら円安は株価にも効かないか、というと、そうでもなく、株価には効くのです。円安が景気に与える影響と株価に与える影響が異なるからです。その違いについて考えてみましょう。

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円安だと輸出入を通じて上場企業の利益が増えて株高になる

日本は、輸出と輸入が概ね同額なので、日本全体としては輸出企業がドルを高く売れて儲かった分と輸入企業がドルを高く買わされて損した分が概ね同額です。

しかし、輸出企業の多くは上場企業なので、「儲け」は概ね上場企業の利益増となり株価の押し上げ要因となる一方で、輸入企業の「損」のうちで上場企業の損になるのは一部分だけです。

輸入企業は上場されていないところも多いですし、上場企業が輸入して損をしたとしても、円安によるコスト増加分を売値に転嫁して上場企業以外が負担するようにしているケースも多いからです。つまり、円安になると上場企業の利益は増えるのです。

次に、円安の景気への影響を考えてみましょう。輸出企業がドルが高く売れて儲かっても、その分は株主に配当されるか銀行への借金返済に使われるかです。株主は配当を受け取っても消費を増やすのではなく他の株を買うだけですし、銀行は融資が返済されたらその分を日銀に預金するだけですから、景気にはプラスになりません。

一方で、輸入コスト高が消費財価格に転嫁されると消費者の懐を直撃して景気を悪化させる力となります。輸出分は景気には影響せず、輸入分の一部は景気悪化の力となるため、円安になると景気と株価が異なった動きをする、というわけですね。

円安だと輸出入以外でも上場企業の株価にプラスの影響あり

輸出入以外にも円安で上場企業の株価が上がる要因があります。上場企業が海外子会社から外貨で配当を受け取る場合、円安で上場企業の利益が増えますが、この部分は国内の景気には関係ありません。海外子会社が利益を配当せずに内部留保した場合でも、海外子会社との連結決算の利益は円安で増えますから、やはり株高要因ということになります。

それ以前に海外子会社の株式は外貨資産ですから、円安になると円建てに換算した資産額が増えます。バランスシートは書き換えないとしても、企業が海外に持っている資産の価値が上がったことを投資家が意識するでしょうから、これも株高要因となるはずです。上場企業は海外子会社の株以外にも外貨資産を持っているでしょうから、それについても同様に株高要因となるはずです。

円安だと資産構成の組み替えが発生

「資産に占める日本株と海外株のウエイトを半々にしよう」と決めている投資家がいるとします。円安になると、海外株の円換算価値が高まりますから、「海外株が半分を超えてしまった。海外株を売って日本株を買わなくては」と考えます。そうした投資家が日本株の買い注文を出すので、日本の株価に上昇圧力がかかるわけです。

「美人投票」が株価の上昇を加速

株価は「美人投票」の世界です。これは株価変動に関する経済学者ケインズの言葉ですが、「株価は、皆が値上がりすると思ったら皆が買い注文を出すから実際に値上がりする」ということです。

上記のように、円安になると株価には上昇圧力がかかります。それを皆が知っているので、「円安になったら株を買おう」と思っている人が市場には大勢いるわけです。そうした人々が円安になると実際に買い注文を出すので、株価が実際に値上がりする、というわけです。

因果関係には要注意

円安と株高が同時に起きて、「円安が株価を押し上げたように見える」けれども違う、という場合もあるので、注意が必要です。円安と株高が同時に起きる場合には3通りあります。第1は、上記のように円安が株価を押し上げる力が働いた場合です。第2は、全く偶然に円安の時に株高だった、という場合です。第3は、全く別の要因が円安と株高をもたらした、という場合です。

因果関係としては、第1は円安が株高の原因であり、第2は因果関係がない場合で、第3は別の要因が原因で円安と株高が結果である、というわけです。第1の場合は親子だから似ている、第2の場合は他人が偶然似ている、第3の場合は、兄弟だから似ている、というわけですね。以下、兄弟の例を2つ。

米国の景気が拡大すると、米国向けの輸出が増えて輸出企業が儲かるので株高になります。それと並行して、米国で金融引き締めが行われ、金利が上昇するので日本人投資家が円をドルに替えて米国債を持つようになります。この過程でドル高になります。つまり、米国の景気が拡大すると、円安と株高が実現するのです。

今ひとつ、市場参加者がリスクオン(リスクがあっても儲けを狙いたい気分)になると、株式投資をする投資家が増えるので株価が上がります。同時に、日本人投資家が為替リスクを気にしなくなり、円をドルに替えて日本国債より金利の高い米国債を買うようになります。したがって、リスクオンによって株高と円安が実現するわけです。

今回は、以上です。ちなみに、円安が景気には効かないという点については拙稿『「円安は景気に良い」は昭和の考え方かも』をご参照いただければ幸いです。

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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