「円安は景気に良い」は昭和の考え方かも

円高、円安は世の中にどう影響するのか

円安は景気に良いが、その程度は昔より遥かに小さい、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

円安が景気に良いのは、輸出入数量が変化するから

「円安になると輸出企業の手取りが増えて景気が良くなる」と考えている読者もいるでしょうが、そうではありません。日本は輸出と輸入が概ね同額なので、「輸出企業が持ち帰ったドルを高く売れた効果」と「輸入企業が購入するドルを高く買わされた効果」が概ね等しいのです。むしろ、輸出には円建ての契約があるため、後者の方が大きいかもしれない程です。

続きを読む

円安が景気に良いのは、輸出数量が増え、国内生産が増え、国内の雇用が増えるからです。円安になると、輸出企業が輸出数量を増やそうとしてドル建ての輸出価格を若干引き下げますから、海外の輸入者が日本製品を購入するようになり、日本製品の輸出が増えるのです。

円安になると、輸入品が値上がりしますから、輸入品を買わずに国産品を買う人が増え、国内生産が増え、国内の雇用が増える、という影響もあり得ます。輸入ワインが円安で値上がりしたから、ワインを飲まずに日本酒を飲む人が増えて、日本酒業界が増産のために人を雇う、といった場合ですね。

円安は輸出面ではプラスのみだが、輸入面では影響は複雑

同じことを、切り口を変えて見てみましょう。輸出にとっては、円安は良いことばかりです。ドル建て輸出価格を若干引き下げても円建ての輸出価格は上がりますし、同時に輸出数量が増えますから。

一方で、資源等の輸入に関しては、円建て輸入価格が上昇する分だけ日本経済のデメリットになります。輸入した企業のデメリットになる場合と、値上げによって消費者がデメリットを受ける場合とがありますが。

複雑なのは、製品類の輸入です。ワインが値上がりすることで、昔からワインを飲んでいた消費者はデメリットを受けるでしょう。しかし、ワインから日本酒に乗り換える消費者が出てくると、日本酒メーカーが儲かりますし、雇用も増えます。

このように、輸出にはプラスの影響しかない一方で、輸入にはプラスの影響もマイナスの影響もあるので、差し引きすると円安は日本経済にプラスだ、ということになるわけです。

円安による物価上昇の影響はケース・バイ・ケース

上記の他にも、円安で消費者物価が上がることの影響が考えられます。「ワインが値上がりして、予算が不足したので肴を少なめにした」という消費者が増えれば、景気が悪くなると懸念されるわけです。これは、円安の景気回復効果を相殺してしまう要因と言えるでしょう。もっとも、重要度はそれほど高くなさそうですが。

消費者物価が上昇すること自体を悲しむべきか喜ぶべきかは、ケース・バイ・ケースでしょう。日本経済がデフレに悩んでいる時であれば、喜んでも良いかもしれません。

一方で、日本経済がインフレに悩んでいる時に、円安で一層消費者物価が上がるようなことになれば、日銀が金融引き締めに走るでしょうから、これは景気にマイナスでしょうね。昨今の経済情勢であれば、そうした事態は想定し難いですが。

昔は円高を非常に恐れていたが

高度成長期の日本は、円高を非常に恐れていました。1971年に固定相場制下で円の切り上げを求められた際、「これで日本経済は大打撃を受ける」と考えていた人が大勢いたのです。

当時の日本製品は「品質は悪いが値段が安いから買おう」と思われていたので、円高になってドル建て輸出価格を引き上げたら輸出数量が激減すると予想されていたわけです。そうしたことから、日本では円高を恐れ、円安を歓迎する傾向が強いわけです。

1985年のプラザ合意で大幅な円高となった際には、輸出企業がドル建て輸出価格を引き上げましたが、輸出数量はそれほど減りませんでした。「日本製品は品質が良いから、高くても買いたい」と思ってもらえるようになっていたからです。しかし、円高恐怖症と円安歓迎の傾向は、その後も続きました。

最近では、円相場と輸出数量の関係が、さらに不明確になっているようです。アベノミクスによって1ドル80円から100円台になったのに、輸出数量はほとんど増えず、輸入数量もほとんど減りませんでした。

輸出入数量があまり変化しなかった理由は、明確ではありません。海外現地生産と国内生産の棲み分けが企業内で確立している、円高時に無理な安値輸出をしていたのが是正されただけだ、等々の事情があるのでしょう。

加えて、「今はドル高だが、どうせ遠からず円高になるのだろう」といった「企業経営者に染み付いた悲観論」があるので円安でも国内生産に切り替えない、といったことも影響していたように思われます。

いずれにしても、円安が輸出入数量にあまり影響しないような経済構造になっている可能性が高そうです。そうだとすると、円安の景気へのプラス効果は小さい、ということになるはずです。もしかすると、マイナスの影響の方が大きくて、トータルでは景気にマイナス、ということもあるかもしれません。

なお、円安は景気に効かないけれど、株価を押し上げる力は今でもあるようです。その結果、「株価上昇が景気にプラスに働く」ということも理屈上は考えられますが、日本の家計はあまり株を持っていないので、個人消費への大きな効果は期待できそうもありません。円安と株高の関係については、別の機会に。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから>>

久留米大学商学部教授 塚崎 公義

ニュースレター

PR

塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
なんだ、そうなのか! 経済入門
老後破産しないためのお金の教科書
経済暴論: 誰も言わなかった「社会とマネー」の奇怪な正体
一番わかりやすい日本経済入門
(雑誌寄稿等)
Facebook、NewsPicks、アメブロ等にて適宜ご紹介