ファイナンシャルアドバイザーとして多くの方からお金の相談を受ける筆者ですが、近年では「物価高」に対する不満の声が増えています。これまで運用をしてこなかった人々も、物価の上昇を実感し、ようやく対策を考え始めている状況です。
物価が上がると、日々の生活費が増加するため、家計が圧迫されます。その結果、将来に向けた貯蓄を増やす余裕がなくなり、老後の生活に対する不安も高まります。
老後はできるだけゆとりのある生活を送りたいと誰もが考えることでしょう。
老後の生活を豊かにするためには、まず「自分が理想とする老後の暮らしには、毎月どれくらいの生活費が必要か」を具体的に把握することが重要です。
何となく「これくらいあれば大丈夫だろう」と考えている人も多いかもしれませんが、実際に必要な金額は人によって異なります。住居費、医療費、娯楽費など、老後特有の支出が増える可能性もあります。
では、実際に現在老後生活を送っている方々は、どの程度の生活費で暮らしているのでしょうか。本記事では、65歳以上のリタイア後の夫婦世帯がどのような水準で生活しているのかを確認していきます。
老後の生活は長期にわたるため、無理なく貯蓄を増やし、安定した生活を送るための対策が必要です。この記事を通して、老後に必要な生活費の目安を把握し、将来の資金計画の参考にしてみてください。
1. 65歳以上「無職夫婦世帯」の貯蓄額は増加傾向に
総務省統計局が公表する「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2023年(令和5年)平均結果-(二人以上の世帯)」によると、世帯主が65歳以上の無職世帯の平均貯蓄額の平均は2504万円でした。
ではこの平均貯蓄額はどのように推移しているのでしょうか。2018年から2023年までのデータを見てみましょう。
1.1 2018年から2023年までの平均貯蓄額の推移
- 2018年:2233万円
- 2019年:2218万円
- 2020年:2292万円
- 2021年:2342万円
- 2022年:2359万円
- 2023年:2504万円
65歳以上・無職夫婦世帯の貯蓄額は、2018年から2020年まで2200万円台をキープ。そののち2021年には2300万円台、2023年には2500万円のラインを超えます。
この背景には、年金制度への不安や長寿化の影響などがあると考えられそうです。少子高齢化が進み、年金制度の支え手となる若い世代は今後さらに減っていきます。
将来の年金に漠然とした不安を抱く人もいるでしょう。リタイア後に備え、少しでも多く貯蓄しておこうという意識を持つ人が増えていることが推測されますね。
定年後も働く「再雇用」や、シニア世代の「起業」など、長く働くスタイルの選択肢が広がりつつあるこんにち。同時に「老後資金を手厚く準備し、公的年金だけには頼らない」と考える人が増えているのかもしれません。
次では、シニアの保有資産の内訳についても見ていきます。
1.2 シニアの保有資産の内訳
- 有価証券:480万円
- 生命保険など:413万円
- 定期性預貯金:846万円
- 通貨性預貯金:754万円
- 金融機関外:11万円
合計:2504万円
世帯主が65歳以上の無職夫婦世帯が保有する資産の平均は2504万円です。そのうち、定期性預貯金が占める割合は33.8%となり、前年度から2.9ポイント低下しました。金額に換算すると19万円の減少です。
一方で、有価証券の割合は19.2%に増加し、前年より2.2ポイント上昇しています。金額にすると80万円の増加となりました。
この背景には、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISAなどの税制優遇制度が広く浸透し、資産運用への関心が高まったことが挙げられます。
また昨今の物価上昇を受け、インフレ対策として「資産運用でお金を守る」という考え方が広がってきたことも影響しているのでしょう。
ここまでは、世帯主が65歳以上の「無職夫婦世帯」、いわゆるリタイア世帯に絞って貯蓄データを見てきました。次は、65歳以上の「働いている世帯も含めた」夫婦世帯の貯蓄事情について紹介します。