2024年から、生きている間に他者へ財産を贈与する生前贈与に関する制度が改正されています。老後は年金を中心とした生活費のやりくりに加えて、相続税対策のための老後資産の使い方も考えなければなりません。

相続税の負担増を防ぐには「非課税枠」と「相続時精算課税制度」の活用がおすすめです。それぞれ上手に利用すれば、負担を最小限に抑えながら次の世代へ自身の財産を遺せます。

この記事では、生前贈与制度に関する改正内容や、相続税の負担増を回避するための方法について解説します。そろそろ相続税対策を始めたいと考えている人は、ぜひ参考にしてください。

1. 相続税のしくみ

相続税は、亡くなった人からお金や不動産といった財産を受け取った際に発生する税金です。税額は以下の仕組みのもとで決まります。

【写真1枚目/全4枚】相続税のしくみ。法改正で相続と贈与はどう変わる?次ページ以降で解説1/4

相続税のしくみ

出所:国税庁「No.4155 相続税の税率」

相続税の税率2/4

相続税の税率

出所:国税庁「No.4155 相続税の税率」

  1. 遺産総額から非課税財産や葬式費用、債務を差し引く
    ※非課税財産はお墓代や寄付金、生命保険金および死亡退職金のうち「500万円×法定相続人数」
  2. 遺産額に暦年課税の贈与財産などを足して「正味遺産額」を算出する
  3. 正味遺産額から基礎控除額「3000万円+600万円×法定相続人数」を差し引いて「課税遺産総額」を算出する
  4. 課税遺産総額を法定相続分で分ける
    ・配偶者と子ども:配偶者2分の1・子ども2分の1
    ・配偶者と故人の父母:配偶者3分の2・父母3分の1
    ・配偶者と故人の兄弟姉妹:配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1
  5. 分けた課税遺産総額に対して、以下の税率を掛けて控除額を差し引く
    ・1000万円以下:10%
    ・1000万円超3000万円以下:15%・50万円控除
    ・3000万円超5000万円以下:20%・200万円控除
    ・5000万円超1億円以下:30%・700万円控除
    ・1億円超2億円以下:40%・1700万円控除
    ・2億円超3億円以下:45%・2700万円控除
    ・3億円超6億円以下:50%・4200万円控除
    ・6億円超:55%・7200万円控除

相続税は、それぞれが受け取った財産額に税率を掛けるのではなく、課税される遺産の総額を算出したうえで、遺産を法定相続分とおりに分けてから税率を掛けて算出します。

葬儀費用やお墓代などは遺産から差し引かれるため、相続税の対象とはなりません。そのため、お墓の購入が相続税対策の一つとなっているのです。

相続税は所得税と同様、申告が必要です。申告書は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出する必要があります。確定申告と同様、所定の申告書を記載して、税務署へ提出しましょう。

では、次章では生前贈与の改正ポイントについて解説します。

2. 生前贈与の贈与税・相続税の改正ポイント

自身が亡くなる前に財産を第三者へ渡すことを、生前贈与といいます。生前贈与は金額によって贈与税がかかる場合がありますが、相続する遺産額を減らせるため、相続税対策につながるのが特徴です。

生前贈与では、相続開始3年前に亡くなった人から財産を受け取った場合に、その財産価額を相続税の課税価格に加算する必要があります。この加算については、2024年から以下のように制度の一部が改正されています。

生前贈与の贈与税・相続税の改正ポイント3/4

生前贈与の贈与税・相続税の改正ポイント

出所:国税庁「令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」をもとに筆者作成

  • 令和6年1月1日~令和8年12月31日:相続開始前3年間
  • 令和9年1月1日~令和12年12月31日:令和6年1月1日~相続開始日
  • 令和13年1月1日~:相続開始前7年間

生前に受け取った財産を相続税の課税価格に加算する期間が、3年から7年へと拡大されます。2027(令和9)年から、段階的に加算期間が増えていき、2031年以降は相続開始前7年間の生前贈与で受け取った財産は、すべて相続税の課税価格に加算される予定です。

よって、生前贈与して相続税負担を減らそうとしても、加算期間が増えるため税負担があまり変わらなくなってしまう可能性があるのです。今後相続税の負担を減らすには、より早い段階から生前贈与をしていかなければなりません。

ただし、改正後は生前7年〜4年の間に受け取った財産については、100万円の控除が適用されます。これにより、加算期間が増えても相続税負担が多少緩和されます。

ともすれば「改悪」とも捉えられる生前贈与の改正。相続税負担をできる限り増やさないためには、どうすればよいのでしょうか。次章で、増税の回避策を解説します。

3. 相続税増税のダメージを受けないための回避策はある?

相続税の増税をできる限り避けるためには、以下の2つの制度を活用するとよいでしょう。

  • 相続時精算課税制度
  • 贈与税の非課税枠(基礎控除110万円)

ただし、完全に相続税の負担増を回避できるとは限りません。財産額や財産から差し引かれる金額(葬式費用など)によっては、制度を利用しても多少の負担が生じる場合があります。

とはいえ、制度を活用しない手はありません。ぜひ制度の活用を検討してみてください。

3.1 【2024年改正】「相続時精算課税制度」を活用でより積極的な生前贈与を

相続時精算課税制度の活用により、相続税額の負担を緩和できる可能性があります。相続時精算課税制度は、生前贈与の際に財産額2500万円まで贈与税を非課税にできる代わりに、贈与した人が亡くなったときに、生前受け取った財産額をすべて相続税の課税対象とする制度です。生前贈与の財産が2500万円を超えた場合、超えた金額に対して20%の贈与税が課されます。

相続時精算課税制度は2024年に制度改正があり、非課税となる2500万円とは別に、年110万円の基礎控除額が設けられました。110万円までの贈与であれば、贈与税はもちろん相続税もかかりません。毎年110万円ずつ贈与していくことで、より多くの財産を生前に贈与できます。

また、相続税は基礎控除額が「3000万円+600万円×法定相続人数」と大きいため、相続税が課税される財産額を大幅に減らせる可能性があります。

加えて、生前に不動産や株式を贈与する場合は、取得時点の価額をもとに税金を計算します。そのため、相続開始時点で不動産や株式の価額が上昇した場合の税負担増加を防げます。

ただし、相続時精算課税制度は税負担を先送りしているだけの制度です。遺産の金額によっては相続時精算課税制度を利用しても相続税が課税される可能性もあります。相続税を完全に回避できるわけではない点に注意してください。

3.2 相続財産が多くない人でも「非課税110万円枠」は活用するのがお得?

贈与税の課税方法は、前述の相続時精算課税に加えて「暦年課税」があります。暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間で贈与を受けた財産に対して課税していく方式です。

暦年課税の場合、毎年110万円の基礎控除額が定められています。つまり、毎年110万円まで贈与していけば、資産が多い人でも相続税を減らせる可能性があるのです。

一方、110万円を超えて贈与すると、贈与税が発生します。贈与税の税率は相続税より高いため、贈与する金額には注意しましょう。親から子へといった直系尊属への贈与にかかる税率と控除額は、以下のとおりです。

直系尊属への贈与にかかる税率と控除額4/4

直系尊属への贈与にかかる税率と控除額

出所:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」

  • 200万円以下:10%
  • 400万円以下:15%・控除10万円
  • 600万円以下:20%・控除30万円
  • 1000万円以下:30%・控除90万円
  • 1500万円以下:40%・控除190万円
  • 3000万円以下:45%・控除265万円
  • 4500万円以下:50%・控除415万円
  • 4500万円超:55%・控除640万円

一方、資産が少ない人は相続時精算課税制度を利用したほうがお得な可能性があります。特に資産額が2500万円程度の人は、確実に贈与した分が非課税となるうえ、相続税も基礎控除により非課税となります。資産の少ない人は相続時精算課税、多い人は暦年課税で非課税枠を活用するのがおすすめです。

4. まとめにかえて

生前贈与が改正され、相続税の課税遺産額の対象となる贈与期間が延長されました。早いうちから贈与をしていくと、生きているうちに資金が足りなくなるのではと不安に感じる人も多く、生前贈与を始めるタイミングがより難しくなっています。

特に数千万〜億単位の資産を持っている人にとっては、今年の生前贈与の改正は痛手となるでしょう。墓石の購入や不動産の購入といった従来の相続税対策に加えて、相続時精算課税・暦年課税のどちらかを選んでできる限り課税遺産額を減らしていくことが重要です。

参考資料

石上 ユウキ