埼玉県川越市に本社を構える企業がエレクトロニクス業界で大きな注目を集めている。その名はオプトラン。オンリーワンともいえる光学薄膜技術を武器とし、北米の大手スマートフォンメーカーでの採用を契機に売り上げが一気に急拡大。スマホに限らず今後もアプリケーションの拡大が見込めることから、さらなる業績拡大に期待が集まる。

99年に会社設立、創業者は中国出身

 同社は1999年に設立。設立者であり、代表取締役会長を務める孫大雄氏は中国出身で、現在は日本に帰化している。設立当初から一貫して光学薄膜装置の開発を行っており、00年に光通信部品向けの光学薄膜装置の開発に成功、01年には売上高37億円を記録し、一気に業容を拡大させた。

 現在、CFOを務める高橋俊典取締役専務執行役員によれば、「この頃から当社の根底を成す基礎技術は変わっていない」と、当時から高い技術力を有していたことを自負する。加えて、重要なことは成膜プロセスのノウハウを顧客に提供できることであり、装置の供給だけでなく、ノウハウ提供をセットにしたソリューション提案が昨今の躍進の背景となっている。

 例えば、成膜する対象物の材質に応じた成膜条件、パラメーターなどの最適化だ。チェックしなければならない項目は少なくても100、多ければ200項目近くになることもあるといい、これを中国をはじめとするアジア企業に対してアドバイスしている。

「株主に報いたい」思いで17年12月に一部上場

 同社は長年、非上場企業として活躍してきたが、17年12月に東証一部への上場を果たす。実は過去に2度上場を検討していたが、ITバブル崩壊やリーマンショックもあって頓挫していた。しかし、「設立以来、当社を支えてくれてきた株主に報いたかった」(高橋CFO)という思いもあり、今回が3度目の正直となった。

 実質上場1年目となる18年12月期は、売上高が前期比31%増の438億円、営業利益が同11%増の81億円を計画する。特筆すべきは前期の17年12月期で、売上高は同2.2倍、営業利益が同3.1倍と急成長を遂げている。やはり大きかったのが、北米スマホメーカー向けに同社成膜装置が全面採用されたことだ。

100nmクラスの薄膜を50層以上成膜

 現在、この北米スマホメーカー向けでは、大きく4つのアプリケーションで成膜装置が採用されている。具体的には①顔認証のバンドパスフィルター ②カメラモジュールの反射防止膜・赤外線カットフィルター ③タッチパネル表面の防汚膜 ④筐体裏面のカラー加飾膜だ。

光学スパッタ成膜装置の主力機種「NSC-15」

 特に①は「黒いガラス部のところに赤外線だけを通す」という非常に難易度の高い技術が求められ、ガラス直下に1層あたり約100nmの厚みの薄膜を50層以上成膜しているという。他のアプリケーションでは競合メーカーも入ってきているが、この①に関しては他の追随を許さず、独走状態といってよい状況だ。

 ②の赤外線カットフィルターでは従来、ガラスメーカーが提供する、いわゆる「青ガラス」が一般的であったが、同社の光学薄膜装置の存在によって近年はフィルム材料へのシフトが進んでおり、カメラモジュールの薄型化に貢献している。ちなみに、このフィルム材料を供給しているのは化学メーカー大手のJSRであり、「オプトランの装置がなければ事業が立ち上がらなかった」(小柴満信社長)と言わしめるほど、存在が大きかったようだ。

上海で第3工場の建設着手

 本社は川越に構える一方、生産は上海、台湾のアジア圏で進める。特に顧客立地に近く、効率的生産が可能な上海での生産をメーンに展開しており、生産原価の低減にも貢献している。

 6月には上海工場の拡張を正式発表。現在、上海工場では第1、第2工場が稼働しているが、新たに研究開発用に第3工場の用地を確保。この第3工場に開発機能を集約することで、既存の第1、第2工場は生産スペースとしてフルに活用できるようになるという。完成は19年10月を予定する。

 また、第2工場の約4分の1を占めていた部品加工スペースを装置組立用に転用し、増産体制を確保。転用工事は18年6月を予定している。同社は20年12月期に売上高527億円、営業利益104億円の達成を目標とする中期経営計画を公表しており、今回の拡張投資は中計達成に向けた施策の一環。

 半導体・FPD・電子部品向けの製造装置サプライヤーは既存メーカーの力が強く、なかなかこうした新興メーカーが出てくる土壌でない。しかし、独自性のある技術を打ち出すことで、一気に市場で主役に躍り出ることができると同社は身をもって証明している。

(稲葉雅巳)

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳