近年は60歳以降も働ける環境が整いつつあり、定年退職後も働く人が増えています。2024年10月には社会保険適用拡大が控え、フルタイムでなくとも厚生年金に加入できる条件が緩和されます。
定年後も働きたいと思うかどうかは人それぞれですが、中には「年金の受給額を増やすために長く働く」という人もいると思います。
では、長く働けば本当に年金額は増えるのでしょうか。
結論から申し上げれば、70歳まで働けば受け取れる年金額が増加します。しかし、注意点もあります。
今回は厚生年金の仕組みについておさらいし、年金額が増える理由について見ていきましょう。
1. そもそも厚生年金とは?
まず、厚生年金の基本的な仕組みを押さえておきましょう。
厚生年金は会社員や公務員などが加入する公的年金制度のことで、国民年金(基礎年金)に上乗せされる形で給付されます。
公的年金制度の仕組み1/3
出所:LIMO編集部作成
日本に住む20歳から60歳未満までの全ての人が加入対象となる国民年金とは異なり、厚生年金保険の適用を受けている企業に勤める70歳未満の方が対象となります。
保険料は勤務先と従業員がそれぞれ半分ずつ負担し、年金支給額は納付期間と収入に基づいて計算されます。
2. 70歳まで働くと年金は増える?
年金支給額は納付期間と収入に基づいて計算されるので、70歳まで働くことができれば年金額が増加します。
加えて、年金の受給開始年齢を70歳まで繰り下げることで、受け取れる年金額をさらに増やすことが可能です。
年金は原則として65歳から受け取ることができますが、受給開始年齢は66歳以降75歳までの間で繰り下げることができ、1ヶ月繰り下げるごとに給付額が0.7%ずつ増額されます。
したがって、受給開始年齢を70歳まで繰り下げた場合の増額率は42%となり、65歳で受給開始するケースに比べて年金額は大きく増加します。
あくまでも一例ですが、65歳の時点での受給額が約20万円だった場合、70歳まで繰り下げてから受給すれば、約28万4000円に増額されることになります。
一見するとメリットが大きい繰下げ受給ですが、実際に選択している人はどのくらいいるのでしょうか。
3. 繰下げ受給を選択している人はごくわずか
厚生労働省年金局「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金の繰上げ・繰下げ受給状況の推移を見てみます。
- 繰上げ受給者:20万6757人(0.7%)
- 繰下げ受給者:37万4481人(1.3%)
2022年度(令和4年度)の時点では、65歳から受給している人が97.9%、繰下げ受給を選択している人が1.3%となっています。
繰下げ受給を選択している人は徐々に増えてきているものの、全体の比率としてはごくわずかです。
また、年度末時点で70歳を迎えている人の受給状況を見ると、繰下げ受給を選択している人は2.1%となっています。
では、年金額が大きく増えるにもかかわらず、繰下げ受給を選択する人が少ないのは何故でしょうか。
単純に「繰下げ受給」という方法が浸透していない、そもそも70歳まで働きたくないなど、理由は様々だと思いますが、実は繰下げ受給にはデメリットや注意点もあるのです。
4. 繰下げ受給のデメリットや注意点
70歳まで働くことで収入と年金額は増えますが、その分、税金や社会保険料の負担が増加します。
年金の受給開始を遅らせることで、短期的な生活資金に困ることも考えられます。
また、年齢を重ねるとともに体力や健康状態が変化するため、長時間労働やストレスが健康に悪影響を及ぼす可能性があるでしょう。
長生きすれば繰下げ受給の方が有利になりますが、受給開始後まもなく亡くなるようなケースでは、結果的に損をすることになってしまいます。
例えば、65歳から月20万円ずつ、80歳まで受給した場合、受給額は3600万円です。一方、70歳まで受給開始年齢を繰下げ、月28万4000円ずつ、80歳まで受給した場合の受給額は3408万円となります。
年金の受給額という点では、80歳以降も長生きしないと結果的に損をすることがわかります。
そのため、必ずしも繰下げ受給という方法にこだわらず、慎重に判断することが大切です。
5. 総合的な視点で判断を
70歳まで働くことには、年金受給額の増加という大きなメリットがあります。
しかし、その一方で税金や社会保険料の負担増加、健康リスクなどのデメリットもあります。
繰下げ受給を選択する際には、自身の健康状態やライフプランを十分に考慮し、家族や専門家と相談することが重要です。
最適な選択をするためには、精神面や体力面、社会とのつながりといった経済的な側面以外にも目を向け、総合的な視点で判断しましょう。
参考資料
加藤 聖人