高学歴で貧困は本当か。日本のポスドク問題とは何か

皆さんの周囲に大学から大学院へ進学して博士号を取得した方がいたら、”それはすごい”と思われるのではないでしょうか。ところが、博士号を取得しても、すぐに大学などで正規の教職に就けるとは限りません。期限付きの仕事でキャリアを重ねながら、テニュア(教職員の終身雇用資格)等としてポジションを獲得していくのがポスドク(ポストドクターの略)に多いというのが現実のようです。

今回はそうしたポスドクについて、経験者(30代後半の国立大学准教授・現職)に話を聞いてみました。

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ポスドクの成功を分ける条件とは

ーーポスドクでうまくいく人、いかない人の差を教えてください。

「人生における成功をどのように定義するかは人それぞれですが、アカデミアに残り、かつテニュアを取る、教授職に就くことを成功というのであれば、まじめに研究業績や教育実績を積むなどして周りからの信頼を得ることが必要です。特に査読や学会運営などもこなして顔を売るといった、いわゆる営業活動も重要です」

「新たなポジションができたり、欠員が出るというのは運です。そして、そのポジションの話が自分に回ってくるにはコネクションが大事です。さらに、そのポジションに就けるかどうかは実力次第です。したがって、運、コネ、実力が必要だと私の周りではいわれています」

ポスドクで成功するためにはどうすればよいか

ーーポスドクの理想的なキャリアパスを教えてください。

「ポスドクの場合、5年以内にテニュアトラック(終身雇用を目指すコース)に入らないと厳しいでしょう。Ph.D.(博士号)を取ってすぐにテニュアトラックに入れる人もいますが、本人の実力はもとより、強いコネと運がないと可能性としては低いのではないでしょうか」

「テニュアトラックの数は、分野にもよりますが日本ではそう多くありません。したがって、海外に目を向けるのが戦略的には正しいのです。ただ、米国ではより強いコネクションが必要です。そのため、国内で学位を取得した日本人が海外を狙うのであれば、欧米よりもアジアが狙い目かもしれません」

ポスドクは雇用も不安定な上に年収も低いのか

ーーポスドクは収入面で厳しいという話もあるようですが、実際はどうなのですか。

「基本的には勤務先の給与体系によりますが、多くは年齢に応じて給与が上がるのではないでしょうか。福利厚生以外は正規雇用と同じ内容で、ポジションが上がるとベースの給与も上がります。私の場合、30代前半での年収は額面600万円を超えるくらいでした。一般企業との比較では、業種にもよるかと思いますが、それほど低い水準ではないと思います」

ポスドクへのアカハラはあるのか

ーーポスドクに対するアカハラ(アカデミックハラスメント)はあるのでしょうか。

「個人的には、アカハラは最近少なくなってきたのではないかと思います。周りの目も厳しいので、みんな気を付けているというところでしょうか。ちなみに、誤解されがちなので一言いっておきたいのは、上司が論文を書きなさいというのはアカハラにあたりません。単なる業務上の指導です。それをアカハラと捉えるのは受け手の問題が大きいと思います」

「ただ、ポスドクで手にする仕事も結局は単年度契約です。上司のいうことを聞かざるをえない弱い立場なので、逆らうことはできません。これは日本でも海外でも同じなのは自分も目にしてきたことです」

ポスドクをどのように活用すればよいのか

ーーポスドクをどのように活用すれば日本の学術レベルは向上するのでしょうか。

「これは私見ですが、ポスドクを活用するなら民間です。アカデミックは活用するにも予算がないので大量には雇えないという現実があります」

「一方、社会科学や自然科学系のPh.D.保有者は民間でも問題発見、調査、分析、価値提案、設計、実装、評価をできるはずです。つまり、自分の専門分野以外でも総合的な能力で仕事ができるといえるでしょう。また、コンピュータサイエンス専攻だとプログラミングもできます」

ーーポスドクの民間活用に問題点はないのでしょうか。

「ポスドクの多くはビジネス感覚がないことが多いのではないでしょうか。また、上司がPh.D.保有者ないしはそうした経歴に理解がある人でないと、マネジメントが難しいという問題点はあるかもしれません」

行政はポスドクへの理解を深めてほしい

ーーポスドクの活用には他にどのような選択肢があるのでしょうか。

「ポスドクを行政に入れるというのも一案かもしれません。つまり官僚です。日本の官僚の多くは学士を持っているだけなので、ポスドクをどう活用するか十分に理解できていない面も多いのではないでしょうか。専門的な理解が乏しい中で教育や研究等に関する政策を立案しているわけですから、当事者からすれば的外れな内容も少なくないのです」

最後に

ーー博士号まで取得して報酬が見合ってないと思うことはないのでしょうか。

「よく周りからも言われるのですが、お金のために研究しているわけではありませんから。ただ、海外では研究者でも数千万円程度の収入がある人はいるので、そこは必ずしもポスドクだから夢がないとは思いませんね」

LIMO編集部

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LIMO編集部

LIMO編集部は、個人投資家向け金融経済メディアであるLongine(ロンジン)の執筆者である国内外大手証券会社で証券アナリストや運用会社のファンドマネージャーとして長年の調査や運用経験を持つメンバーやビジネス系インターネットメディアでの運営経験者等を中心に立ち上げ。その後Longineのサービスは2020年3月に終了となったが、Longine編集部のメンバーは引き続きLIMO編集部のメンバーとして在籍し、お金のプロとしてコンテンツ編集や情報を発信しています。LIMO編集部は、証券・金融業務メンバーに業界紙出身の新聞記者などもメンバーに加え、国内のみならずグローバルの視点から、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデア、ビジネスパーソンの役に立つ情報をわかりやすくお届けします。