2018年のiPhoneにおける製品戦略が徐々にだが見えてきた。17年に市場投入された10周年記念モデル「iPhone X」の販売が振るわず、これまでの強気の価格設定も、一部見直しを迫られている。最重要課題ともいえた有機ELモデルの価格引き下げについても、肝心のパネルモジュールのコストダウンが難しく、コストパフォーマンスに優れた液晶モデルのウエイトが高まる見通しだ。
当初生産計画が半分以下に下方修正
満を持して投入されたiPhone Xだが、1000ドルを超える価格設定の割に、それに見合った価値を提供することができず、結果不発に終わったといってよいだろう。四半期別の「X」の生産量(部品取り込みベース)を見ても、それは明らかだ。17年10~12月は約3500万台あり、年明けの18年1~3月についても当初は4000万台近い数字が練られていた。
しかし、販売開始当初から売れ行きが想定以上に低迷し、年明け以降の生産予定台数が激減。再三下方修正が行われ、当初計画の半分にも届かない1400万台レベルで着地したと見られている。
そして、18年4~6月は500万~700万台にまで落ち込み、6月末をもってEOL(End of Life=生産終了)となる。過去に発売から一年も経たずに生産・販売が終了となったiPhoneはない。事実上、アップルが失敗を認めた格好だ。
LGDのサプライチェーン入りは来年に持ち越し
こうした反省を踏まえ、18年の製品戦略はこれまでと違ったものとなる。これまで強気なスタンスを貫いていた価格設定については、方針転換を余儀なくされそうだ。1000ドルを超える価格設定では市民権を得ることが難しい。こうしたなかで、アップル自身が望んでいることが有機ELモデルの価格引き下げと見られている。
「X」が1000ドルを超える価格になってしまった最大の要因は、やはりディスプレーを従来の液晶から有機ELに切り替えたことだ。調査会社IHS Markitによれば「X」のディスプレーモジュールのコストは110ドルとされ、「8 Plus」に用いられている液晶ディスプレーに比べて2倍以上高い。「Face ID」機能に必要なTrueDepthカメラなどももちろんコストアップ要因となっているが、やはりディスプレーにメスを入れることがもっとも効果的だ。
しかし、これは18年に達成することが難しい課題といえそうだ。当初の目算では、18年から従来のサムスンディスプレーに加え、2社目となるLGディスプレー(LGD)が供給メーカーに加わる予定であった。しかし、LGDの立ち上がりが遅く、18年モデルにも供給することが難しい情勢となっており、いわゆるサムスンの「言い値」という構図は崩れそうにない。
年内生産量のうち半分強が液晶モデルに
有機ELモデルの価格引き下げという大目標が難しくなった今、アップルは一部で「液晶回帰」とも取れるスタンスを見せ始めている。今のところ、18年の新機種は年内生産量として1億~1.2億台と見込まれているが、このうち液晶モデルが過半を占めることになるとみられている。
実際には55:45程度の比率となる見通しで、それほど極端な偏りはない。しかし、そもそも18年は17年のトライアルを経て、有機ELモデルを大々的に売り出していきたいタイミングであった。
液晶モデルの生産ミックスが増えることで、ジャパンディスプレイ(JDI)をはじめとする液晶ディスプレーや、それに用いられる偏光板やフィルム、LEDバックライトメーカーにとっては朗報だが、有機ELのサプライチェーンにとっては一時的とはいえ誤算といえる。
ちなみに、アップルは18年に新機種として当初3モデル(液晶6.1インチ、有機EL5.8インチ、有機EL6.5インチ)を予定していたが、「X」の失敗を受け、同サイズの5.8インチモデルについても販売を見送る可能性も指摘され始めている。
(稲葉雅巳)
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳