金融審議会 市場ワーキング・グループが令和元年に出した報告書である「高齢社会における資産形成・管理」。

こちらを受けて、「老後のために2000万円の資産形成が必要」との考え方が浸透しつつあります。

では、同い年の妻と「65歳に完全にリタイヤする」と決めたとき、必要な貯蓄は本当に2000万円で大丈夫なのでしょうか。

老後に実際に必要な金額は、各家庭の事情によって変わってくるため、各家庭の事情を考慮して適切な目標設定をすることが大切です。

2月は今年最初の年金支給月にあたりますが、こうした年金収入も加味する必要があります。

1. 平均的な二人以上世帯の月々の不足額なら2000万円で適切

二人以上世帯で、平均的な収支構成をもつ場合は、目標額2000万円というのは概ね適切といえます。

総務省統計局「2022年(令和4年)家計の概要」によると、平均的な無職の老後世帯の収支は次のとおりです。

平均的な無職の老後世帯の収支

出所:総務省統計局「2022年(令和4年)家計の概要」を参考に筆者作成

1.1 収支の一覧表【二人以上世帯・単身世帯】

  • 可処分所得:21万4000円・13万5000円
  • 消費支出:23万7000円・14万1000円
  • 家計収支:▲2万2000円・▲2万1000円


【消費支出の内訳】

  • 食費:6万8000円・3万7000円
  • 住居費:1万6000円・1万3000円
  • 光熱費:2万3000円・1万5000円
  • 家事用品・被服費:1万5000円・9000円
  • 娯楽費:2万1000円・1万4000円
  • その他:9万4000円・5万3000円


月々の可処分所得と消費支出をベースに考えると、二人以上の無職の65歳以上世帯で2万2000円、単身世帯で2万1000円程度の赤字です。

これはひと月あたりの赤字なので、65歳からの寿命を想定すれば、日々の家計における老後の生涯の不足額がわかります。

仮に95歳まで生きるとすると、二人以上世帯で802万円、単身世帯で741万円必要という計算です。

これだけなら2000万円の資産があれば余裕で乗り切れる計算といえます。

一方で、歳をとればどこかのタイミングで介護を受ける必要性が出てきます。

実際には介護費用については、子ども世帯など別の世帯が負担しているケースも多いため、総務省の家計調査には充分に織り込まれていないと考えられます。

子ども世帯に負担をかけないためには、介護費用まで含めて用意しておくのが望ましいでしょう。

介護費用は生命保険文化センターの令和3年の調査によると、一時的な費用が74万円、月々の費用が8万3000円、平均の介護期間が61.1ヶ月です。

これを踏まえると、平均的な支出はひとりあたりおよそ581万円となります。

すなわち二人世帯なら1162万円です。

月々の家計不足額の合計と介護費用を合計すると二人世帯では1964万円が必要という計算になります。

2000万円を用意しておけば、ちょうど賄える計算です。

ちなみに、単身世帯の場合は同じ計算に基づくと1322万円で足ります。

このように平均的な世帯であれば、2000万円あれば老後の備えとして充分であることがわかります。

ただし、こちらの数字はインフレリスクを加味していません。今後も物価上昇が続くことを考えると、今の2000万円が数十年後の2000万円と同じ価値ではいられないでしょう。

こうしたリスクも考えて、老後資金と向き合う必要があります。