2023年11月、「東京貧困女子。―貧困なんて他人事だと思ってた」(WOWOW、以下東京貧困女子。とする)が放送を開始しました。
このドラマは東洋経済オンラインでの連載が人気を集めた書籍「東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか」(2019)を連ドラ化したものです。
主人公の契約編集者・雁矢摩子は経済的余裕のなさを自覚しているものの、貧困をどこか「他人事」と思っていました。しかし、ふとした瞬間に、自分も「貧困層」に該当することに気付きます。
本作では風俗やパパ活などで収入を得ながら国立大学・医学部に通う優花(田辺桃子)や男所帯の会社でパワハラに遭った恵子(宮澤エマ)など、一見すると「普通」に見えるものの、経済的に困窮し、社会の不条理に直面してきた女性たちが取り上げられています。
東京都は大企業が多く、全国的に有名な私立の学校や有名進学塾も多くあります。女性が好むような事務や受付の求人も多く、アフター5を楽しむ女性たちの姿がファッション誌などでも古くから取り上げられてきました。
また、SNSを中心にタワーマンションで暮らし、子どもを大手進学塾に通わせる人たちの暮らしぶりが注目されています。
その一方、東京で厳しい状況の中で暮らす女性たちの姿や、彼女たちのバックグラウンドについてメディアで取り上げられる機会はあまりないと言えるでしょう。
そうした中で近年、「東京貧困女子。」のように、東京の負の側面についても着目されるようになってきています。
また、データに着目すると、そもそも東京都在住の中間層は全国的に見てもとりたててゆとりがあるわけではないことに気付きます。
本記事では東京都の経済的ゆたかさを見た上で、女性を中心に東京での暮らしで直面する可能性が高い問題を見ていきましょう。
1. 東京都在住者が自由に使えるお金は全国的にも少ない傾向に
東京都には大手日系企業の本社や外資系企業の支社、各種省庁などがある他、芸能人も多く住んでいるため、高収入の人が多く暮らしているイメージがあります。
こうしたイメージは「タワーマンション」や芸能人などが住む「高級住宅街」からもつくられてきたのでしょう。
しかし、国土交通省「地方の「豊かさ」に関する参考資料」を参照すると、東京都は全国的に見ても中間層はそれほどゆたかではないという現実に気付きます。
東京都の「可処分所得」は全世帯平均において全国3位という結果であるものの、中央世帯の平均は12位となっています。
さらに、中央世帯の「基礎支出(食・住関連の支出)」はもっとも高く、「可処分所得」と「基礎支出」との差額は42位という結果でした。つまり、給与などから生活費を差し引き、手元に残る金額が全都道府県のうち42番目に多いということです。
東京都には高い報酬を従業員に支払っている大手・有名企業もありますが、中小企業の割合の方が高いです。
また、都内の各種サービスを支えている非正規雇用で働く人も多くいます。そうしたことからも、中央世帯が他のエリアと比べてゆたかというわけではありません。
2. 日本は男性よりも女性の方が貧困率が高い
内閣府男女共同参画会「女性の貧困と社会的排除(国立社会保障・人口問題研究所)」によると、男性よりも女性の方が貧困率が高い傾向にあります。
上記の表では、貧困率がもっとも高い層は65歳以上の女性となっています。
また、20~64歳の勤労世代についても、1995年から2007年まで女性の方が男性よりも貧困率がわずかながら高くなっています。
勤労世代の女性も不安定な状況に置かれており、生活基盤が社会情勢などによってわずかでもズレた途端に貧困に陥るケースが多々あります。
このことは、コロナ禍で問題となった非正規雇用で働く女性たちの状況にもうかがえます。
コロナ以前は経済的に余裕があるとは言いがたいものの、自分自身を「貧困層」と感じる女性はそう多くはなかったはずです。
しかし、感染対策のために社会の動きがストップすると、仕事を失い、収入が途絶える女性が急増しました。
その背景には、女性の多くがホテル・商業施設の清掃業や飲食・サービス業などで働いており、客足によってシフトが調整される職業に就いていることが深く関係していると考えられます。
また、女性は結婚をきっかけに新卒で入社した会社を辞める人は現代においても少なくありません。
夫と離婚すると自分の収入だけで生計を立てていかなければならなくなりますが、再就職が難しかったり、就職が決まらなかったりするケースも多々あります。
現役時代に収入が少なかったり、雇止めなどによって年金未払いの期間が長ければ、将来的に受け取れる年金は少なくなります。20〜64歳以下の女性の貧困は65歳以上の女性の貧困ともつながっているのです。