7割が退職後も働きたい、しかし3割弱しか働けていない
50-60代12,000人強※に対して行ったアンケート調査の結果から、5回にわたって、退職後の「資金の引き出し世代(D世代、デキュムレーション世代)」の特徴を紹介しています。
※現役者6,333人、退職者6,250人。2017年8月上旬に実施。
退職後の活動のなかで中心になることは何かを聞いた設問では、現役者6,333人のうち「少しでも収入を得るために継続して働きたい」または「社会とつながっているために働き続けたい」と回答した人は69.6%に達しました。
一方で、退職者6,250人のうち実際にそうしている人は27.7%しかいませんでした。働きたいと思っても、実際にはなかなか働けていないということがわかる結果となりました。
『現実より20年も短い退職後のライフプラン』でまとめた通り、退職時点が想定よりも6年ほど早くなっているなかで、退職後も働き続けることが厳しいとすれば、退職後年収の源泉も楽観視することはできません。
公的年金支給までに進む資産の取り崩し
退職者6,250人に退職後年収の源泉を聞いてみると、その平均値は勤労収入が31%、公的年金が41%、金融資産の取り崩しが11%でした。ただ、勤労収入と公的年金はばらつきが大きく、特に年齢によって大きく違いがあることがわかりました。
50歳から5歳刻みで退職者の退職後年収の源泉の変化をみると、いくつかの特徴がわかり、課題も見えてきます。
まず勤労収入は年齢が上がるにつれて66.6%から12.6%まで低下しています。これは、年齢を重ねるほど働ける人が少なくなり、またその収入自体も減ってくることを示しています。一方で、公的年金の比率は支給開始年齢の65歳が分岐点となり、65歳以上になると61.7%へと大きく上昇します。
注目すべきは、金融資産からの取り崩しの傾向です。50歳から64歳までは10%台ですが、公的年金の支給がスタートする65歳以上になると5.9%へと低下します。
退職後年収の中央値を使って金融資産からの取り崩し金額を推計すると、50代は年間60万円程度、60代の前半で45万円程度に上っています。公的年金の支給が始まるまでの間、勤労収入がカバーしきれない分、金融資産の取り崩しが進んでいる様子がわかります。
70代からはさらに資産からの引き出しが増える可能性
もうひとつ課題になるのは、70代以降です。今回のアンケート調査では回答率が大きく低下するため調査対象としませんでしたが、退職後年収の源泉については、ある程度推測できるでしょう。
退職後年収は300万円台を継続する可能性が高く、公的年金は60代後半と同様に収入の6割強をカバーするとして、勤労収入12%強が抜け落ちる可能性が高くなってきます。これをカバーするのは、金融資産からの取り崩し以外には見つかりません。
そうなると、金融資産からの取り崩しは、退職後年収の20%程度にまで高まることになります。年間60-70万円の取り崩しが、70歳以降95歳までの25年間継続すると仮定すれば、総額で1,500-1,750万円に達する規模となります。
もし、『公的年金以外に必要な金額に100万円のギャップ』で言及したように、退職後年収が335万円よりも100万円ほど上振れするとなれば、それは全て資産からの取り崩しになりますから、さらに2,500万円程度の上乗せが必要になる計算です。
まずは65歳の公的年金受給までの間にできるだけ金融資産の取り崩しを進めないようにすること、退職後もある程度資産運用を行って目減りを抑制することなど、対策が必要不可欠になりそうです。
注: 生活費の中央値はその金額を回答した人が対象のため、総数は4,521人で、50-54歳は485人、55-59歳は530人、60-64歳は1,335人、65-69歳は2,171人。年間生活費の設問と、その源泉に関する設問は別々で聞いているために、必ずしも整合的でない部分がある。
合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史